Visits

Online: 1
Today: 339
Week: 5749
Overall: 3521206

Flag counter

free counters

独居老人の悲しい話

スウェーデンで働くようになってから、80代後半、ときに90代の患者さんを診察することが良くあります。日本では、沖縄勤務だった頃は、本土に比べると、多くの高齢の患者さんの診察をしていましたが、東京では超高齢の患者さんはそれほど多くありませんでした。日本のカルテは、「明治、大正、昭和、平成」といった元号で生年を表記していましたので、明治生まれや大正生まれの患者さんが受診すると、「高齢」という感じがしましたが、スウェーデンでは当然西暦表記ですので、当初は感覚が掴めませんでした。今までスウェーデンでは、99歳が最高齢で、100歳超の患者さんは未だに診察したことがありませんが、恐るべきことに、90代の患者さんでも一人で受診することがあります。

最近診察した80代後半の男性。転移のみられない浸潤性の膀胱癌で、既往歴もないため、膀胱全摘を予定していました。何と、ストックホルム市内のアパートに独居。一週間に数回の掃除と買い物のお手伝いに来てもらっている他は、自立しています。しかも、最近、ほぼ視力を失ったとのこと。それでも、自分で料理をしているそうです。3人いる子供は遠くに住んでいて、受診の日はそのうちの2人が付き添い。視力がないということを知らなかった私は、手術の話を始めたのですが、そこで、娘から、「お父さんは目が見えないし、一人で住んでいるから、ストーマの管理が出来ないのではないか。」という発言。そこで、手術以外の治療法を説明することになります。転移のない浸潤性膀胱癌であれば、膀胱全摘が一番ですが、根治に近い治療としては放射線治療もあります。しかし、放射線治療には副作用もありますので、高齢で盲目の独居老人ということであれば、無治療という選択肢も。

日本であれば、子供が3人もいれば子供と同居することが多いので、ストーマは家族が管理する手もありますが、スウェーデンでは親との同居というのはまず有り得ません。子供が親を介護など考えられませんし、ましてや、嫁が義両親を介護などとんでもない話です。この患者さん自身も、「今、症状がある訳ではないから、治療しなくてもいい。もう、十分生きてきたし、一人で目がみえないし、、、、。」と言います。何だか、胸が詰まるような気持ちになりました。

しかも、話をしてみると、39度台の熱が夕方になるとあり、診療所を受診したところ、抗生物質を処方されただけだったと。

「今も気分が悪いのでは?」と訊ねると、頷く患者さん。子供たちは、「こんな老人を週末に処方だけで放り出し、目もみえないのに、薬局を探し回らなければならなかった。」と怒り心頭。

熱はなさそうだが、脈を取ると、一分120ほどの頻脈。聴診上は不整脈はないが、収縮期雑音が聞こえる。大動脈弁狭窄症を持っているらしい。肺野を聴診すると、バリバリ音がする。

「スウェーデン人男性は、辛くても、辛いって言わないから、、、、。辛いときは辛いって言わなきゃだめでしょ。」と彼に言い聞かせながら、救急外来へ緊急の診察依頼を書きます。

「おそらく入院が必要だから、すぐに救急外来へ行ってください。」

日本だったら、自分の科のベッドを手配して入院させるのでしょうけれど、スウェーデンではそうはいきません。原疾患があっても、緊急性のある症状が他科のものであれば、救急外来へ回しますし、自分の科のベッドに空きがなければ、仕方がないので救急外来へ回し、救急外来の病床コーデイネ―ターにベッドを手配してもらうことになります。今回は、16時頃に救急外来へ行ってもらったのですが、18時には血液検査も終わり入院となりました。CRP200以上、白血球数2万以上もあり、高齢だし危ないところでした。

肝心の膀胱癌の治療ですが、患者さん自身は「無治療」という方向に傾いていて、とても切ない気持ちになります。

「高齢者が子供の世話にならない」で、出来る限り高齢者が自立し、介護は第三者の手に委ねるというスウェーデンのシステムには、基本的には賛成です。日本のように、未だ、「長男の嫁」が介護の犠牲になることには、疑問を感じます。身内の介護には報酬がありませんが、第三者の介護には報酬が発生し、従って、国にとっては税収となり、それをさらに福祉に回すことができます。子供世代だからといって、親の年齢まで生きることが保障されている訳ではありません。基本的に介護の責任が子供にかかるのは好ましくないと思っています。しかし、今回のような「独居高齢者」の実態、「独居」により治療が制限される可能性があることを目の当たりにすると、複雑な想いになります。

私などは、現在、両親がなんとか健康であることや、妹が両親と同居していることに甘えて、日本から遠く離れた土地で親不孝をしておりますが、そんな自分の人生も振り返り、出口の無い迷路に入り込んだような気持ちになってしまいました。

高齢者が患者さんであることが多い泌尿器科。スウェーデンの高齢者は、日本に比べて自立しているという印象です。80歳代であれば、たいてい一人で外来を受診しますし、90歳代であっても一人で来院することは珍しくありません。手術目的の入院の際も一人、退院も一人。先日も、80代後半の男性で、90代の奥さんの介護を自宅でしているという患者さんに会いました。「若い世代のお世話にはならない。」という気概は、日本人も見習ってもよいことでしょうけれど、日本式とスウェーデン式の間で中庸を得たシステムというものは実現しないのでしょうか、、、。

2 comments to 独居老人の悲しい話

  • Tomonori

    いつも楽しく読ませて頂いています.
    よく一言で文化の違いと言われますが、このような話を読むとなるほどと実感できます.
    更新が早く、気づくと2−3の話が溜ってしまいますが、これからもお願いします.

    追記:CRP200ではなく20ではないでしょうか.私が見た最高値は50くらいです.

    • Tomonori先生。

      そうですね。やはり実体験で説明しないと、文化の違いはわからないこともありますね。
      更新を怠けるときには、随分ほったらかしにしてしまいますので、気長にお待ちください。

      CRPですが、ご指摘ありがとうございます。スウェーデンでは、mg/Lで表記しており、従って、日本のmg/dlの値の10倍になります。日本の単位をもはや忘れかけております。お恥ずかし。

Leave a Reply

You can use these HTML tags

<a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>