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医療ミスの処遇

最近、立て続けに経過観察における医療ミスを発見しています。

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前立腺癌は進行が緩徐であるため、医療ミスが不幸な結末の原因となることはあまりないのですが、膀胱癌は全く別物です。

1件目は、膀胱癌で膀胱全摘をされ、その経過観察中にCTを撮影し、そのレントゲン画像の読影ミスで、腎盂癌が見逃されていた。次のCTでは既にリンパ節に転移しており、過去のCTをチェックしたところ読影ミスが発覚。これは、院外の放射線科医の読影でした。

2件目は、同じく膀胱癌で膀胱全摘された患者さん。カルテには、次回診察は半年後、と記載されている(カルテは医師がdictationして、それを秘書さんがタイプアウトして、さらに、予約も取るようになっています)のに、予約が取られておらず、2年間受診せず。他の症状のため他院救急を受診してCTを取ったところ、大きなリンパ節転移が発見されました。

3件目は、スウェーデンではミスではなく、インフォームドコンセントの欠如にあたるのかもしれませんが、妙齢の女性で、脊椎症のため前方からの手術をした方が、同側の尿管狭窄をきたした事例です。術中の操作で同側の尿管への栄養血管を損傷されたと思われますが、結果として、その腎臓は無機能腎に近い状態になってしまいました。整形外科医からは全く話がいっていませんでした。

4件目は、膀胱外まで進展した膀胱癌の女性の患者さん。少なくとも5年前から膀胱炎様の症状があり、たびたび家庭医を受診するも、抗生剤投与のみされていました。最近1年は下腹部の痛みに加え、完全失禁状態。私が内視鏡でみると、膀胱内は腫瘍だらけ。

 

1件目、2件目は泌尿器科医のミスではありませんが、私がそのミスについて外来で説明することになり、説明して、Patientskadenämndenに申請を出すようにすすめました。同時に、関係者にLex Maria法に基づいて報告するように伝えました。おそらく、患者さんが賠償金をもらえるとしても、微々たるものだと思います。

 

3件目は、日本では当該整形外科医は相当高額の慰謝料を支払わなければならないと思われます。スウェーデンでは、やはり、Patientskadenämndenに申告することによって、賠償金を貰えるかどうかのギリギリのところだと思いますが、申請することを勧めました。

 

4件目は、家庭医のミスです。繰り返す膀胱炎、しかも、カルテによると、抗生剤を投与しても尿が無菌にはならず、それを検査もしないで何年間も同じ治療を繰り返したのは、無能な医師であるか、サボタージュです。残念ながら、スウェーデンに移住してから、数人、同じような患者さんを目にしました。そのような患者さんは、間違いなく膀胱癌で亡くなります。しかも、経過は早い。家庭医の専門医を標榜しながら、このようなミスは許されないと思います。一回だけの診断ミスではありません。何年もの間、20回は受診しているのですから。

このような場合、医師同士で告発するということにはなりにくい。患者さんには、「おそらく、腫瘍のために症状が何年もあったのでしょうね。」というニュアンスで話をしますが。その後、訴えを起こすかどうかは患者さん次第。日本であれば、間違いなく訴訟になり、少なくとも数千万円は下らない慰謝料を医師が払うことになるに違いありません。私は移民医師でもありますので、正義を通すことには大きな勇気(また、犠牲も)が必要です。それでも、あまりに大きな怒りが込み上げてきたので、何もしない訳にもいかないという思いで一杯になりました。同僚とも相談した上で、家庭医に経過の詳細を記載した退院サマリーを送りつけることにしました。その医師が(少しはまともであれば)自分のミスの大きさに気づき、二度と同じ間違いをしないようになるのでは、という期待があります。

研修医やGPの方、女性の繰り返す膀胱炎では膀胱癌を疑う必要があります。同じミスを犯すことのありませんように。膀胱癌を見逃すと、致命的です。

 

日本では、医療ミスがあった場合、もともとの疾患の予後や、患者さんの年齢などは慰謝料にあまり関係しない傾向があるように思います。また、患者さんが亡くなった場合でも、遺族に高額の慰謝料が支払われる場合もあります。80代、90代の患者さんに対するミスでは、スウェーデンではおそらく賠償金は出ません。患者さんが生きている場合には、患者さん本人に対して賠償金が出ますが、亡くなった場合に家族に支払われることはありません。また、これらの賠償金を医師個人が払うということもまずありません。賠償金には、慰謝料、つまりミスに対する罰としての位置付けはなく、あくまでも、ミスの被害にあった患者さんが、「生きてゆくために」必要な費用の補填ということなのだと思います。どちらのシステムが優れている、と言うことはできませんが、日本ではときに、「慰謝料をいかに取るか」ということが重要になって、それが、遺族や弁護士の金儲けの手段になっている印象を受けることがあります。そのために、医師が、常に訴えられることを考えながらdefencive medicineに走らなければならないという現実を悲しく思います。ほとんどの医師が善意ある職業人であるのにもかかわらず。

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8 comments to 医療ミスの処遇

  • Nao

    医者が有能か、無能か判断することは、私のような素人には難しい。医療関係者なら、あら?なんだかおかしいぞ?と思うことも、素人である私たちは、気付かず、お医者さんを全面的に信頼してしまいます。気になる症状はあっても、医者に「大丈夫!」と言われれば、なんだ気のせいか!なんて簡単に思ってしまいます。だから、医療ミスや医者の怠慢によって死んでしまったり、後遺症が残ったり…などということはほんの一握りだと信じたい。素人はどう対処すればよいのでしょうね… おかしいな?と感じたら、いろいろな医者さんにみてもらうということくらいしかできないですよね… 気が重くなります…。

    • Naoさん。無能な医師にあたるのは本当に不運ですが、有能な医師であってもミスをすることはあります。ミスの被害者になったとき、なりそうなとき、どうやって非専門家である患者さんが対応したらよいのか、とても難しい問題だと思います。疑心暗鬼になって信頼関係が失われても問題ですし、、、。ただ、有能な医師であれば、ミスをしたあとの対応が適当であれば、大事に至らないのが多くのケースだと思います。

  • Ma~

    大変、お疲れ様です。Patientskadenämndenに届け出るのは、近年になってからなのでしょうか?それとも、以前からあったのでしょうか。

    • Maさん。以前からありました。医療ミスの報告は、いろいろと変遷がありましたが、現在ではSocialstyrelsenへ報告するようになっています。

  • Go

    場違いでしたらすみません!
    僕は医学科5回生なのですが、
    スウェーデン留学の件でぜひ先生にご質問させていただきたいと思っております。
    メールアドレスはどちらにございますでしょうか?
    お手数おかけいたします!

    • Goさん。お返事が遅くなってしまって、ごめんなさい。
      プロフィール欄にメールアドレスがありますので、メッセージをお待ちしております。

  • Nao

    スウェーデンの友人の子供が癌だと診断されました。癌が発見されるまで、1ヶ月以上、嘔吐と腹痛・胃痛が続き、その度に急患に走ったにもかかわらず「精神的なものではないか?」「便秘ではないか?」と特に検査もなく送り返され、時にはちょっと小馬鹿にされたそうです。この件には複数の医者が関わっており、訴えることなどできないでしょうが… 母親である友人はその間、3キロ以上体重が落ちたそうです。1ヶ月以上急患通いが続いた後、良いお医者さんに出会ったそうで、この検査はもうしたか?これは?と聞かれ、そのお医者さんも、他の医者の軽率さ・杜撰さにビックリしていたそうです… 。悲しいやら、腹が立つやら…

    • Naoさん。重いコメントを頂いていたのですね。ごめんなさい。

      良い医者、悪い医者がいるのは、どこの国でも同じだと思うのですが、スウェーデンでは複数の大病院を受診できる訳ではないので、運が悪いと大変なことがあります。その後の経過が良いことを祈るばかりです、、、。

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