あれよあれよという間の快進撃で、ほぼ毎回ストレートで勝利し決勝まで進んだ20歳の大坂なおみ選手。大学時代に(医学部のですが)体育会テニス部で、勉強よりもテニスをする時間の方がずっと長い生活をしてきた私としては、見逃す訳にはいかない今年のUSオープンの女子シングルス決勝。しかも、相手は出産を経て復帰したセレーナウイリアムズ!
第一セット。両者ともに力強いプレーながら、大坂選手が常に優勢の試合展開。時速200キロ級のサーブは凄い威力。セレーナのサーブを2回ブレークして6−2であっという間に第一セット先取。
第二セットは、セリーナのサービスゲームから始まり、両者互角のプレー。いやいや、ベースラインプレートしては最高のパフォーマンスを見せてくれました。セリーナがネットに出ても、落ち着いてダウンザラインのパスや、急な角度の沈むクロスのパス。興奮しました!
準決勝では13回のブレークポイントを全てセーブした大坂選手ですが、初めてサービスゲームを落とします。その後、すぐに取り返します。
それからまさかのハプニング。主審がセリーナに、「coaching」で警告を出します。コートサイドに座っているコーチから、手によるサインが送られたからです。これはのちに、コーチも認めています。グランドスラムでは、coachingが禁止されているということを知らなかったモグリのテニス通だった私は、何が起こったのかすぐに理解することができませんでした。「I don’t cheat to win, I’d rather lose」とこのときセリーナは言いました。
3-2のイーブンで迎えた大坂選手のサービスゲームで、怒ったセリーナは、ラケットをコートに叩きつけてラケットが壊れてしまいます。
そしてここで、racket abuseに対して一ポイントがぺナルテイーとして課せられ、この大坂選手のサービスゲームは15-0から始まりあっさりキープして3-3。
セリーナはさらに怒りを爆発させます。
Every time I play here, I have problems. I did not have coaching, I don’t cheat. You need to make an announcement. I have a daughter and I stand for what’s right. You owe me an apology.
そして、あっさりサービスゲームを落とし、3-4となります。怒りが収まらないセリーナは何回も主審席に向かい抗議を繰り返します。
For you to attack my character is wrong. You owe me an apology. You will never be on a court with me as long as you live. You are the liar. You owe me an apology. Say it. Say you’re sorry. How dare you insinuate that I was cheating? You stole a point from me. You’re a thief too.
この発言がverbal abuseと見なされ、何とセリーナは1ゲームをぺナルテイートして失います。それで3-5。セリーナはトーナメントレフリーであるBrian Earley をも呼び出して、
You know my character. This is not right. To lose a game for saying that, it’s not fair. How many other men do things? There’s a lot of men out here who have said a lot of things. It’s because I am a woman, and that’s not right.”
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その後のセリーナのサービスゲームは、大坂選手があっさりプレゼントしたかと思われるほどあっさりキープし4-5。そして大坂選手のサービスゲームで、マッチゲームとなるゲームを大坂選手がキープして優勝が決まりました。セリーナは試合が終了しても主審と握手をするのを拒否しました。
そんなドタバタの中の優勝でしたが、大坂選手の方がセリーナよりも良いプレーをしたという事実は明らかでした。20歳という若さで、感情も見せずに試合に集中した大坂選手。全ての面で素晴らしいとしか言いようがありません。
表彰式で、トロフィーを受け取っても悲しそうだった大坂選手。式の間も沸き起こるセリーナファンによるブーイング。サンバイザーを下げて顔を隠し涙を流す大坂選手。
表彰式での大坂選手のスピーチも素晴らしかったです。ブーイングをする観衆に対し、
“I’m going to differ from your question, I’m sorry.”
と前置きした上で、
“I know that everyone was cheering for (Williams) and I’m sorry it had to end like this. I want to say thank you for watching the match.”
と感謝の気持ちを述べました。
20歳で掴んだ初めてのビッグタイトルを純粋に喜べない難しい状況に置かれた若い彼女の言葉で、初めて観客は鎮まって大坂選手の勝利を祝う雰囲気になったようでした。
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記者会見では、普段のチャーミングな彼女が表現されていました。日本人記者の日本語による質問にも英語で答えていましたが、彼女は日本語より英語が上手なんだそうです。
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そもそも、coachingのルールはこの10年ほどで変わってきており(30年以上前に現役だった私が知らなかった訳でした。)、以前はcoachingは禁止されていたところを2008年にWTAが公式ツアーでon coat coachingを認めたのが始まりだそうです。これは、1セットにつき1回、エンドチェンジの際またはセットの間にコーチがコート上で選手と話をすることが許されるものです。2015年からはコート上へiPADを持ち込み、リアルタイム分析の結果を示しながらコーチングすることが許されるようになり、コーチングがその後の試合の流れに大きな影響を及ぼすことが証明されてきました。
セリーナは、コーチングを否定しましたが、それだけであれば警告だけで済んだはずです。大坂選手のサービスをブレイクし、巻き返すためにはこの上ないチャンスだったにも関わらずすぐに大坂選手にブレイクバックされたフラストレーションが、racket abuseという形になりました。そこで一ポイントを失い、さらに感情的になってゆきます。この試合とは全く関係のない「sexism」とか、「娘の前の母親像」などを持ち出しているところも、あまりにプロらしからぬ発言です。もっとも、セリーナの暴言は今に始まったことではないのですが。自分の不甲斐なさをsexismの問題にすり替え(女性として、黒人として色々な問題と闘ってきたであろうことは確かですが)、メンタルをコントロールできない未熟な人間性は、トッププレイヤーとして長く君臨してきた女王のキャリアの終末において、あまりに醜い。
淡々とした主審にも興味が湧きました。主審はポルトガル人のCarlos Ramos氏でしたが、非常に厳格な主審として知られているようです。ナダル、マレー、キリオスらにも遅延行為や暴言に関するペナルティを科してきました。それをセリーナやセリーナのコーチが知らないはずはありません。セリーナのコーチPatrick Mouratoglou 氏は、のちに、コーチングの事実を認めた上で(記事 )、「コーチは皆誰やっている。Naomiのコーチもやっている。」と発言しています。何だか、選手もコーチも発言が未熟としか言いようがありません。ルールはルールだし、審判の判断には従わなければなりません。例え、審判が正しいとは限らなくとも、スポーツの世界ではどこでも起こりうること。
You will never, ever, ever be on another court of mine as long as you live. You are the liar.
このセリーナの発言は完全にアウトです。脅迫としか言いようがありません。
話は変わって、大坂選手のコーチであるサーシャ氏。8ヶ月前に新しいコーチになったとのこと(記事 )。彼は、セリーナのヒッテイングパートナーもしていたそうです。
コーチが、表彰式での大坂選手のスピーチを聞きながら、涙を流していたのがとても印象的でした。
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やはり、こんなチャーミングな顔が見たいです。
日本人の母、ハイチ人の父を持つハーフだそうです。両親はどんなに嬉しいことでしょう!
ママはコートサイドで娘を抱きしめました。
まだ20歳でこの強さ、この冷静さですから、これからどんどん活躍してくれることでしょう。
ランキングは7位まで上がったそうですが、1位になるのもそう遠い日のことではないのでしょうか。
感動をありがとうー!
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