スウェーデンにおいて、老人ホームなどの医療・福祉サービスはKommunの管轄下で、私的・公的機関が行っています。会社によるサービスは全体の15%ほどですが、年々増加傾向にあります。会社がKommunの委託を受けてサービスを提供する場合、サービスに対する報酬の多くはKommunによって、すなわち、Kommun税から支払われます。具体的には、ストックホルムにおいてCaremaは14の老人ホームと8つのホームヘルパーの拠点を有していますが、毎日最高200万クローナをKommunより得ることができます。
医療・福祉サービスを提供する会社で最も大きなものは、Carema。最近、Caremaのスキャンダルがニュースを賑わせています。
2005年にイギリスのベンチャー会社3iがCaremaを買収した時の値段は18億5千万クローネ。その後、2009年にAmbea-gruppen(スウェーデンのTritonとアメリカの KKRという二つのベンチャー会社が所有)に売却されたときの額は何と、5倍以上の83億クローネだったそうです。
(2011-11-12DNより )
以前から、Caremaのサービスの質に関しては問題があったようですが、今回のスキャンダルのきっかけは、「秘密のボーナスプログラム」です。
Caremaは営利を追求することにプライオリテイーをおいており、利益が上がれば管理者のボーナスに影響する秘密のシステムがあるとのことです。利益第一にすると、サービスの質が低下します。そのため、入所者の死亡につながった事例もあるようですが、従業員の削減は勿論、あらゆるコストの削減が行われており、その一つである、「おむつ重量計測指令」については、11月に大きく報道されました(記事)。
おむつのコストを下げるために、従業員は使用済みのおむつの重量計測を行うように指示されていたそうです。おむつが100%近く濡れるまでは、おむつの交換をしてはいけないのだそうです。
この「秘密のボーナスプログラム」によって、最も高額なボーナスを得た人たちは、、、。
庶民にはとても縁のない、億単位のボーナスを得ています。
その後、コスト削減のためのいろいろなからくりも暴露されました。
TritonとKKRに、3iからCarema Careが2009年に売却された際、通常税申告は、1月から12月の計算で行われるものを、売却後の2009年の5月1日から12ヶ月と変更し、このことにより、2億クローネの節税(脱税?)をしています。
さらに、TritonとKKRの属するAmbeaグループ内での資金の貸し借りにより、利益を最小限にするとともに、法人税が12%という「Skattteparadis(税金パラダイス)」であるルクセンブルグの会社に送金することにより、年間1.4億クローネの節税をしていることになるそうです。
この事件を受けて、医療・福祉サービスを提供する会社の利潤追求の禁止や、サービスの質の確保ほ方法など、政治家の間でも議論が始まっています。「弱者」と「税金」を食い物にして利潤を追求するなど、絶対に許せることではありません。日本の医療・福祉業界でも、大きな問題となっていますが、犠牲になるのは常に弱者です。そして、日本の場合は、膨張し続けるコストが、「医療崩壊」を起こす危惧さえ孕んでおり、スウェーデンよりも問題は大きいと言わざるを得ません。
予想はしていたものの、ここまで民営化の影響が大きく出たとは…。がっかりしましたし、悲しいですね。政治論議がどうなっていくのか、私ももっと知りたいです。
まーさん。
そうですね。福祉分野における利潤が、さらに福祉に還元されるようでなければならないと思います。そうすると、民営化というのは無理がありますね。政治主導でなんとかしてほしいものです。