日本では、新型コロナ変異株流行を鑑み、面会制限やマスク義務を再導入する医療機関も発生しているという。
感染予防目的の面会制限。これにはエビデンスがないことは言うまでもなく、まさに人権侵害と言えるだろう。スウェーデンでも、施設に感染が持ち込まれるのは医療従事者や介護者経由である場合が多いことがわかっている。「少し喉が痛い」、「多少咳が出る」などの軽度の症状があった場合、医療従事者や介護者は欠勤せずに勤務するだろうが、患者家族の場合は面会を躊躇するだろう。大切な家族に感染リスクがあるような行動を慎むであろうことは当然である。それなのに、家族の面会だけを感染リスクとするのは理不尽である。
マスクの議論も一部で再燃している。医療従事者がピンポイントで使用するマスクについては、主に飛沫防止目的で使用されているが、そのマスクに効果があることは間違いない。マスクは使用目的に合わせた質のものを適切に使ってこそ効果がある。しかし、一般に使用されるユニバーサルマスクはそうではない。また、コロナ禍にスウェーデンでは繰り返し説明されたように、不適切なマスクをしていることでソシアルデイスタンスを取らなくなれば、感染予防に関しては逆効果である。通常、ユニバーサルマスクは、質が伴わない雑貨程度のものが多く、1日に複数回取り替えることもされず、顔との隙間も大きく開いており、感染対策としては、まさに「やっている感」を出すだけのものである。医療従事者でさえも、一日中マスクを強いられている場合には、顎マスクあり、耳掛けマスクあり、隙間ありで、いい加減に装着している場合が多いのが実情である。
人の行動に制限を加えるにあたっては、明確なエビデンスが必要である。「効果がないとは言えない」程度では根拠にならない。また、これまで医療機関においてマスクをしないことで問題が起こったことがあっただろうか。私の勤める病院でも、マスクなしとなって久しいが、全く問題にならない。マスクの感染防止効果に関して強力なエビデンスがあるのであれば、世界中の病院でマスクをするだろうが、そうはなっていない。これまでの報告で、効果があったとする報告でもその効果はごくわずかであり、効果がないとする報告も多い。明らかに効果があるなら、どのような研究をしても、その結果には再現性があるはずである。
感染対策に関してだけでも効果は明らかではないのに、ユニバーサルマスクのデメリットについてはマスク肯定的派が取り上げることはない。顔を隠すことのデメリットだけでなく、マスクを購入するコストや、マスクの廃棄周辺の問題は取り上げられない。コロナ禍以来、多くの国民が道端に捨てられたマスクを目撃したことがあるはずだ。それが、社会にとってどれだけの負荷となっているのか想像してみてほしい。
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