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尿路系損傷に関する講義

ストックホルムでは、平日の夕方に、特定の専門分野のスペシャリストを招いての勉強会が行われることが度々あります。

今回出席した勉強会は、特に、産婦人科疾患に絡む尿路系損傷などがテーマで、泌尿器科医だけが対象ではないのも、魅力の一つです。

「Obsteric and iatrogenic injuries to the urinary tract」

というタイトルで、スウェーデンに限らずヨーロッパ内の大家も招かれています。

自分自身の備忘録も兼ねているので、少しグロテスクな図も出てきますので、医療系に弱い方はどうぞスキップしてください。

「iatrogenic」とは、「医原性」の意味で、医原性尿路損傷は、今回は主に、産婦人科や消化器外科領域の腹部手術で、尿管や膀胱を損傷してしまうことです。子宮は膀胱のすぐ後に位置し、尿管とも近接しています。S状結腸や直腸は男性においては膀胱のすぐ後です。子宮全摘やS状結腸、直腸の手術において、尿管を損傷し、泌尿器科医が呼ばれることは、珍しいことではありません。

スウェーデンでは、一年あたり、約10万5千人の患者さんが、医原性の障害(治療行為により得る障害)を被っており、そのうちの4万人以上が手術の際に起こったものだそうです。医原性の障害を治療するために、病院の全ベッド数の10%が使われており、治療に必要なコストは1年あたり44億クローネにも上るのだとか。

帝王切開において、6人のうち1人が輸血が必要で、膀胱など多臓器の損傷は100人に2人。結構頻度が高いと思いました。

分娩後に、尿失禁や便失禁が起こることは良く知られています。

スライドは、胎児の頭が膀胱を恥骨に向かって圧迫するところを示しています。報告では、分娩後の尿失禁の頻度は5%から40%で、少なくとも10%以上の経産婦が尿失禁となるようです。

尿失禁よりも厄介なのが、便失禁。

分娩の際、肛門方向へ裂傷が起こることにより、肛門括約筋が損傷を受けるのが原因。Obsteric Anal Sphincter Injury(OASIS)と呼びます。

骨盤の形と胎児の頭の形は種族によって異なるそうです。ゴリラは安産なのでしょうか?因みに、人間はHomoです。

分娩の際に、会陰切開(Episiotomy)をすることがあります。

下段の図は、会陰切開の頻度の経年的変化、上段はOASISの頻度の経年的変化を示しています。

つまり、会陰切開が年々減るにつれ、OASISが増えているというデータ。

北欧におけるOASISの頻度は、デンマークが3,6%、ノルウェーが4,1%、スウェーデンが4,2%であるのに対し、会陰切開を多く行うフィンランドでは0,6%と低頻度。会陰切開がOASISを予防することは理解されていますが、会陰切開を行えば良いというものではなく、行う場所が重要。

肛門方向から45度の方向が良いとされますが、60度くらいを狙ってようやく45度くらいになるとされ、非常に難しいそうです。

尿失禁や便失禁、また、子宮脱を予防する意味での帝王切開はある程度効果があるとされています。しかし、緊急帝王切開では、肛門挙筋、臀部の神経、内骨盤筋膜などが既に損傷されている可能性が高いため、効果は殆どないとのこと。先に述べたように、帝王切開にも合併症がない訳ではなく、どんな患者さんを帝王切開とするかは難しいし、費用対効果も考慮しなければいけない。

尿失禁は泌尿器科の領域であり、多くの女性が密かに悩んでいる問題でもあります。

病状によって、骨盤底筋体操、内服や手術など様々な治療法がありますので、泌尿器科受診をお勧めします。

講義の後半は、主に産婦人科手術における尿管損傷の症例提示と、診断法や治療法に関するデイスカッションでした。泌尿器科医にとっては、目新しいものもなく、気楽に聞いていましたが、産婦人科の先生にとってはやはり難しいようでした。自分の専門科目の周辺領域の分野は、もっと勉強の必要があり、非常に刺激を受けた会でした。

2 comments to 尿路系損傷に関する講義

  • mikan

    お久しぶりです、前にもコメントさせていただいたmikanです。
    今年もブログの更新楽しみにしています:)
    いまちょうどポリクリで産婦人科で実習しているので、タイムリーだなぁと思いながら読ませていただきました。胎児の頭部、人間だけほぼ骨盤径と同じ大きさなんですね!確かにゴリラやチンパンジーは安産なのかも・・・でも彼ら(?)って、頭に比して肩幅がかなりあるような気がするので、分娩時に苦しむポイントが違うのかもしれませんね。
    スウェーデンでは医原性障害の方の治療のために、ベッドの10%が使われているというのはちょっとびっくりしました。日本ではもっと少ない印象を受けますが、それは私がまだ学生で認識不足ゆえかもしれません。

    • mikanさん。コメントを見落としていて、お返事が遅くなってしまいました。ごめんなさい。
      骨盤の形や大きさの種差があるなんて、当たり前のようですが、考えたことはありませんでした。

      おっしゃるように、10%のベッド占有率というのは、高いと思いました。少なくとも、私の経験ではそれほど高くないかもしれません。しかし、術後のちょっとした合併症で入院期間が長くなるなどのケースを計算に入れると、意外に高い数字になるのかもしれません。日本では、「社会的適応」の入院がかなりあるので、計算が難しいのではないでしょうか。急性期病院が終末期や慢性疾患などを抱えている、抱えられるほどのベッド数があるため、スウェーデンよりは母集団となるベッド数が格段に多くなります。従って、相対的に医原性障害によるベッド占有率も少なくなるというしくみがあるのでは。

      ポリクリ、頑張ってくださいね!

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