物心が付いたときには既に眼鏡のお世話になっていた私には、目覚めたときに周囲がはっきりと見えた記憶が全くないほどの「ど」近眼です。視覚が弱点である私の嗅覚はなぜか非常に敏感。かすかなタバコの臭い、薬品やガスの臭い、香水、、、。喘息持ちでもある私は、これらに刺激されて発作が起こることも稀ではありません。最近では、基礎化粧品も極力無臭のものを選ぶようにしていますし、香水に至っては全く使いません。欧米では、所謂、腋臭を持つ率が高いようで、それを隠すために香水を使っている人もいますが、そんな人が通りかかっただけで咳が出ます。病院では、香りや花粉アレルギーの患者さんを考慮して、お見舞いの花束を持ち込むことは禁止されていますが、香水禁止令を望んでいる人も少なくありません。私が以前、買い集めた香水瓶も、戸棚の中で眠ったままになっています。
様々な感覚の記憶が、特定の感情を呼び起こすことはよくあることですが、嗅覚が敏感である私には、いくつかの香りの記憶があります。そのうちの一つは、「太陽の香り」です。子供の頃、綿で出来た布団で寝ていましたが、毎週末、天気が良ければ、母が布団を干してくれていました。その夜、布団にもぐったときの香りは特別で、それを「太陽の香り」と理解していました。同じく、太陽光の下に乾かされたタオル。プールで泳ぐのが好きだった小学生の頃、プールでかじかんだ私の体に母がバスタオルを掛けてくれるときのタオルの暖かさと太陽の香りといったら、、、。それらの香りは、何とも言えず優しくて暖かくて、、、まさに、「母の愛」を感じていました。今でも、帰国して実家の布団に入るとき、帰国にあわせて布団を干してくれる、「母の愛の香り」を楽しんでいます。母の香りはその他にも、母の得意料理の香りがいくつかあります。私が子供の頃、貧しいながらも精一杯工夫して作ってくれた料理はとても美味しかった(もう長い間、食べていませんが、今度帰国したら手料理をお願いしてみようかしら、、、。)。
これらの香りは、私の海馬、大脳皮質を直撃し、強い感情を呼び起こします。切なくなります。私にとって、「香りの記憶」というのは、非常に強いインパクトがあるようです。
遠距離恋愛で別れてしまった学生時代の彼は体育会テニス部の後輩。彼は結構なお洒落さんでしたが、彼の定番の香りがありました。それはオーデコロンだったため、普段はそれほど感じないのですが、お互いに部活動が終わってシャワーを浴びたあとのデートでは、香りを強く感じました。男性がつけるオーデコロンの香りを嗅ぐというのは、私にとって初めての経験で、その嫌味のない爽やかさに大きな魅力を感じ、胸がキュンとなったものでした。
その香りがこちら。200年以上の歴史を持つ、ミューレンス社の香り。フランス革命の最中、フランス軍がケルンに進駐します。その際に、ケルンの建物に番号をつけましたが、ミューレンス社の番号が4711だったことから命名されたのだそうです。その香水は、「ケルンの水」と呼ばれましたが、フランス語では「オーデコロン」。これが、オーデコロンの由来なのだとか。オレンジなどの柑橘類、ローズマリー、ラベンダーなどが配合されていて、女性でもつけられそうな香りです。
彼に別離を告げられたあと、10年ほどその恋愛を引きずることになったのですが、その間は4711の香りを嗅ぐと、彼との思い出が蘇り、心の古傷が痛みました。香りの記憶というものは、これほど強烈であるのかと驚きました。
長期記憶は海馬によって大脳皮質に送られるようですが、感情を司る扁桃体と海馬との間にコミュニケーションがあるのだそうです(図はネットからの借り物です)。私の場合、嗅覚の記憶が扁桃体を介して強い感情を惹起するのだと解釈すると非常に納得できます。
先日、友人とこんな話をしたら、彼女の場合は、昔、失恋したときに聴いていた、「ドリカムの曲」は、今でも悲しくなるので聴けないということを話してくれました。良くわかります。私の場合は、ユーミンかな。それでも、聴覚より嗅覚の惹起する感情の方が秒単位で起こる早いもので、私にとっては衝撃が大きいように思います。
数年前、戸棚の中で眠っていた4711を、久しぶりに嗅ぐ機会がありました。
もはや、懐かしさだけで、心が痛むことはありませんでした。何だか少し切なくて、でも嬉しかった。だから、今、こうやって昔の恋の話を表現できるのだと思います。本当はもう少し書いてみたいのだけれど、また別の機会に、、、。










こんばんわ。
明日、こちらは祝日です。
この香水にこんな由来と、先生の思ひ出があったのですね。
そうとは知らず、テスターというかミニチュアが
ころころと 私の鏡台の前で しておりました~~
もっと海馬を刺激しなくては(笑)
ガムラ スタンさん。
こちらは休みもなく働いております。
結構知られた香りですよね。もう一度、嗅いでみようかしら。
そうそう、短期記憶が年齢とともに衰えてきています。「ドアの鍵を閉めたかな」などという。
海馬のトレーニングが必要ですね!