仕事に病気の双子の看病に家事に、疲れ切っている中のオンコール。前日に急に頼まれての週末のオンコールです。
下の先生は、私がmentorをしているドイツ国籍の専修医の女医さん。ドイツ国籍とはいっても、出身はアフリカ。養子としてドイツの家族に貰われてきたのです。その家族には、一人子供がいますが、その他に5人の養子。彼女は、ベルギー、イギリスなどで研修医として働き、本来はイギリスで泌尿器科専門医になりたかったそうなのですが、イギリスの年齢制限にひっかかり、諦め切れずにスウェーデンへ2年前にやってきました。もともと、ドイツ語、フランス語、英語、アラビア語、スペイン語などを話す彼女は、すぐにスウェーデン語も話せるようになりました。女性であり、非スウェーデン人であり、黒人であり、という、決して易しくない立場で、同じように移民としてやってきた私を頼りにし、慕ってくれていますが、彼女の強さ、そして、スウェーデン人の誰も叶うことのない努力など、私が見習うことは多いと思っています。
例えば、ロボット手術の助手をやりたいとします。普通のスウェーデン人の専修医でしたら、まず、カルテを読んでくることはありません。術者が説明するのを待っています。しかし、彼女はそうではありません。病歴は勿論のこと、助手がポートを立てるときに重要な情報となる、患者さんの身長や体重、手術歴などを含めてチェックしてきています。
そんな彼女ですので、安心してファーストコールを任せていましたが、日曜日の夜に彼女から電話がかかってきました。これは、緊急手術かな、などと思いながら電話に出ると、驚くべき話を聞かされることになったのです。
彼女のところに、腎臓内科のオンコール医から電話が掛かってきました。腎臓内科の病棟に、尿閉の患者さんがいるようなのですが、病棟の看護師にカテーテルを挿入するよう指示したところ、挿入できなかったとのこと。そこで、泌尿器科のオンコールに出勤して挿入してくれとの依頼でした。
タフな彼女は、その無茶苦茶な依頼に対して、
「まず、あなたがトライして下さい。あなたが出来ないのであれば、私が出向きます。」
当たり前です。
それに対して、腎臓内科の医師は、
「私は家で寝ているんです。私がわざわざ病院に行く必要はない。プロである泌尿器科医にお願いします。」
彼女は、
「それでは、私が教えてあげるから、あなたも来てください。」
と続けると、
「私は透析の医者だ。今更、カテーテル挿入を学ぶ気は無い。」
と言ったそうなのです。
最初の会話がどのように終了したのか定かではありませんが、それが夜の10時頃。その後、夜中の2時頃に腎臓内科の病棟の看護師から、彼女に電話が入ります。
「腎臓内科のオンコール医が来てくれないのです。助けてくれませんか。」
尿閉の患者さんを何時間も放置するなんて、正気の沙汰とは思えません。最初の電話のあとに彼女から相談を受けていた私は、もし、何かあれば、彼女が出勤する前に、泌尿器科病棟の看護師に、挿入しやすい特殊なタイプのカテーテルを持参して試すように指示するようにアドバイスしていましたが、結局、泌尿器科病棟の看護師が問題なく挿入できたそうです。
このとんでもない腎臓内科の医師がどういう人間なのかは知りませんが、たまに、移民を見下すような態度を取る医師もいます。中には、移民医師が移民医師を見下すこともあります。この医師が移民に対する差別意識を持つ人間かどうかはわかりませんが、今回のような押し問答では、移民であることがプラスにならないことは確かです。最近では私も、このようなハードな会話でもスウェーデン語で物怖じせずにできるようになりましたが、彼女は在瑞2年、しかも、泌尿器科の専門医のトレーニング途上でもあるという厳しい状況で、自分の主張を通したことはあっぱれとしかいいようがありません。
とんでもない医師は、日本にもいます。しかし、今回、医師としては基本中の基本とも言える尿道カテーテル挿入を、自分で試すこともせず、泌尿器科医を挿入係に使おうとする態度は許せません。まさに、怒髪冠を衝くとは、こんなことでしょう。
因みに、スウェーデンでは点滴ラインの挿入は基本的に看護師さんがしますが、難しい場合には、当直の麻酔科の医師に依頼することがあります。その場合は、麻酔科へ処置のコストを支払わなくてはなりません。泌尿器科医は、その点厳しくなく、タダ働きとしてカテーテル挿入することも多いので(日本ではまずタダ働きでしょう)、コストをしっかりと請求するようにしなければいけないと思います。しかし、夜中にオンコールが出勤してカテーテル挿入したとすれば、コストを取ったとしても、科としては持ち出しになるのではないかしら、、、。






多分医学の世界はもっと厳しいのでしょうね、私の様に芸術系の大学でも卒展で場所を決める時、それまでは人種差別反対とか男女平等だとか言っていた仲間にあなた達外国人学生はこの(正規)会場ににはスペースは無いので何処か探してと言われました。卒展には色々な会社やバイヤー、メディアが来ますので最大のチャンスだったので彼ら(スウェーデン人)にとっても真剣だったのでしょう。私達外国人(日本、米国、アイスランド、フィンランド)はそれならと色んな学部に声をかけ美術教育の空いてる場所を借りる事できました。その結果ロケーション(作品)も良かったのかとても好評でメディアが取材したり作品が買われたりと思いもしない事に。でも散々文句を言っていたスウェーデン人の学生が良かったねと言ってくれたのが嬉しかった。世界で最も平等意識が有ると言われているスウェーデンでも差別主義者もいるしそれを払拭する人もいますね〜どこでも色々な人がいます。長くなってごめんなさい。
ゼペットおばさん。
いろいろあったのですね~。本当、スウェーデンにもいろいろな人がいます。一番、頭に来るのは、表向きは差別主義ではなくても、実は差別ばりばりの人。
移民としては、あまり気にせず、淡々と生きるのが得策なのですが、たまに切れそうになることもあります(切れたことは一度もありませんが)。
初めてコメントさせていただきます.
いつも大変興味深く拝読しています,日本は千葉県の泌尿器科医です.
留学経験がなく,日本の医療しか存じませんが,カテーテルに関するいろいろは欧州にもあるのですね.自分も先日,夜中に尿道カテーテルを自己抜去されたケースでコールされ,透視なしでなんとか留置しました.もちろんただ働きです.
見下す,ということでひとつ質問があります.
日本では泌尿器外科医が消化器外科医などから下にみられる風潮が一部にありますが,スウェーデンではいかがでしょうか?
はじめまして!
尿道カテーテル挿入といえども、奥は深いですよね。「もちろんただ働き」というのは、本当に日本の悪いところです。しかも、医師の善意で成り立っているという現状を国民が理解しておらず、不満だけがふくらんでいるという、、、。
スウェーデンでは、泌尿器科医が消化器外科医より下ということはありません。私自身、泌尿器科領域の手術の方がずっと難しいと思っています。しかも、20年前と比べると手術も様変わり。それに、どちらかといえば、泌尿器科医が消化器外科医を助けてあげることの方が多いのでは?なーんて大きな声では言えませんが。