来週末には、病棟と手術部門が全て新病院へ引っ越します。
それに伴って、来週は膀胱全摘のような大きな手術はなし。従って、今週の膀胱全摘が旧病院での最後の症例ということになります。奇しくも、私がその症例を執刀し、また、私自身の10例目の症例となりました。
新体制になってからの権力抗争はまだ続いています。6月末に手術室で怒鳴り合い(正確には、私は怒鳴ってはいないのですが)の喧嘩になり、ボスに呼び出しをくらったイスラム教徒の同僚が、男尊女卑以外では説明できない彼の態度を釈明できないため、仮病を使って欠勤。彼が執刀するはずだった症例を担当できるかとボスから打診され、今まで執刀したことのないロボットによる膀胱全摘を指導者なしで始めることになったのです。7月から約3ヶ月で今回10例目。熟練した助手を横取りされたり、T4のような高度浸潤癌で高難度の症例も含まれています。ロボットによるオペ時間は今までの術者と遜色なく、在院日数も平均すると1週間以内で、大きな合併症もないという事実は、私の実力を示して余りあるものでした。ボスからも称賛の言葉をもらいました。
「あなたは何て強くて優秀なんでしょう!こんな大きなプレッシャーの中で、やったことのないオペを成功させるなんて素晴らしい!」
自画自賛はほとんどしない私ですが、確かに、第三者の立場で考えればその通りです。最初の症例は始める前には手足が震えていました。勿論、やったことがないとはいえ、ロボットでできなければ開腹して良いというボスからの指令だったので、患者さんにリスクを負わせることはないという自信があったからこそ引き受けたのです。それでも、執行部への反対勢力を喜ばせる訳には行きませんから、何としてもロボットで完投しなければ、という気持ちはありました。これまでに膀胱全摘のロボット手術の助手は100例、前立腺全摘の助手は300例以上、前立腺全摘の術者は300例以上手がけた経験もあります。尿路変向も10例程度、教授の指導で執刀しました。これだけ経験があってできない訳がありません。
しかし、私が執刀を始めてから、反対勢力は、「やったことのないオペを指導者なしでやるなんて危険だ」ということを盾に、攻撃を続けています。反対勢力の中には、開腹による膀胱全摘ができない医師がいて、私的には、彼が執刀する方がずっと危険だと思っています。この次に攻撃されたら、その点で反撃するつもりです。ボスがミーテイングを招集しても彼らは逃げ回っていて、今後どうなるのでしょうか。イスラム教徒の彼は会っても挨拶もせず、彼の方が窮地に立っているのだとは思いながらも、私も毎日ストレスの塊です。
それでも、誰にも頼らずにもはやオペができるという自信は、私に自由とさらに大きな自信を与えてくれました。彼らの一部は世界的にも有名で、学会でライブサージェリーをしたり、世界中から講師として招請されていて、このタイプの手術の術者としては超一流ということになりますが、いまでは、彼らよりもクオリテイーの高いオペをするぞいう気持ちです。外科や婦人科から助っ人を頼まれることもあるのですが、他科からも高く評価してもらっていて、今週は、小腸を使って尿管を延長して膀胱へ吻合するケースと、ボアリ手術といって膀胱を使って尿管の延長をするケースを頼まれました。喜んでもらってとても嬉しい。本望です。
今日、先週執刀した、離島からきた患者さんが、ヘリコプターで帰ってゆきました。元気になって喜んで帰ってもらえることが、この上ない喜びとエネルギーを与えてくれます。1日1日が、いつ終わるともしれない戦いで、プロトンポンプインヒビターを内服しながら生活していますが、ボスが解決策を探ってくれているので、戦わずに働ける環境が整うのを心待ちにするばかりです。
10例無事に達成したこの週末は、何か美味しいものでも作ってお祝いしたいなあ。
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