スウェーデンで医師として働き始めてから、3年近くが経ちました。最初は、やはり言葉のハンデイがありましたし(勿論、今でも多少ありますが)、見た目も明らかに移民ですから、患者さんに信頼してもらえるかどうか、とても心配でした。また、医師の同僚や、看護師さんを含め、パラメデイカルに信頼されるかどうかも。
外来には、原則として予約の患者さんしかきません。あらかじめ、受診の案内の手紙が、患者さんへ届けられるのですが、その手紙には、予約の日時とともに、担当医の名前が記されています。非日本人にとっては、日本人の名前は、違和感があるにちがいありません。中には、「日本人だと思った」と言って、日本語で挨拶してくれる患者さんもいます。日本人は会釈をすることを知っていて、会釈をしてくれる患者さんもいます。幸い、今まで、移民医師であることで患者さんに嫌がられた経験はありません。むしろ、わざわざ指名してくれる患者さんもいるくらいで、そんなスウェーデン社会に、私は深い敬意と、感謝の念を持っています。
因みに、我が診療科の医師のうち、30%近くは移民医師です。日本人である私以外は、イスラム圏からの移民で、勿論、名前もそれとわかる名前です。
専門医受診には、診療所からの紹介状が必要です。毎日届く紹介状に目を通し、専門医受診が必要なものを選別し、受診が必要な症例には優先順位をつけて、外来予約をしますが、それは上級医の担当となっています。私もときどき紹介状の処理をしますが、その中にこんなものがありました。
16歳男性の肉眼的血尿。以前に、同じ内容で診療所から紹介状が届き、その紹介状を受けた上級医は、外来での膀胱鏡を予定しました。受診案内を受け取った患者さんの母親が、外来へ怒りの電話をかけてきました。その際の、看護師記録には、、、。
Hon avbokar läkarebesök p g a att hon inte kan acepterar att sonen ska träffa och bli undersökt av läkare med utlänskt namm.
(彼女(患者の母親)は、外来予約をキャンセルした。何故なら、彼女は息子が外国人の名前の医師を受診し、検査を受けることは、受け入れられないからである。)
彼の担当医は、膀胱癌チームのチーフである上級医。彼はイラン出身。優秀な外科医です。専修医が担当する外来もある中、本来ならば幸運であるはずなのですが、担当医の名前がイスラム圏の名前であるというだけで、拒否。しかも、患者さん本人ではなく、母親が。カロリンスカには、欧米からの医師も勤務していますが、欧米の名前を外国人と判別するのは難しいはず。つまり、中東やアジア、あるいは、東欧やロシアの名前にアレルギーがあるのか、、。
そこで、患者さんの名前をみて、再び驚きました。患者さんの名前自体、イスラム圏の名前なのです。母親も中東出身の移民。
この母親からの怒りの電話に対して、スウェーデン人である看護師さんが、どのような対応をしたか、、、。
看護記録は続きます。
Föklarar att alla våra läkare är kompetenta oberoende av nationalitet och ursprung, och att vi tar avstånd från sådant resonemang.
当診療科の医師は、国籍や出身に関係なく、コンピテンスがあること、そして、そのような議論は受け入れられないと説明。
そして、母親の要求には応えることはできないため、紹介状は、紹介元へ送り返すと。
かなり、感動しました。移民が移民医師を差別することも驚きでしたが、移民の身で十分な医療をスウェーデンで受けさせてもらっているにも関わらず、このような態度を取るこの母親に、怒りさえ覚えました。しかし、それよりも何よりも、スウェーデン人が、「差別を許さない」という断固とした態度で臨んでいることが、心の琴線に触れました。
最終的には、上級医が、紹介元の医師への返事を書くのですが、その返事も迫力のあるものでした。
「患者の母親が、外国人医師受診を拒否したため、紹介状は差し戻します。この患者さんに対し、今後、当診療科の予約を取ることはありません。当院以外の当該診療科で、外国出身の医師がいないところへ紹介状を送ってください。」
ときどき、患者さんと担当医の相性が悪く、患者さんから担当医変更の希望が出ることがあります。そのような場合は、患者さんの希望が通ります。今回のような、人種差別を理由とした担当医変更希望に、断固とした態度を示すスウェーデンの社会には脱帽です。そして、とても嬉しく思います。
専門医受診の際には、居住地の住所によって、管轄病院が決められているため、その病院を受診できなければ、全くのプライベートのクリニックを受診しなければなりません。ただ、半官半民のような病院もあって、この患者さんの新しい紹介状はその病院に送られたようなのですが、その病院から、事情を知らないまま、再度、我々へ紹介状が転送されてきたのを、私が処理することになったのです。私が自分で診察しようかとも思いましたが(どんな人間なのか、興味あり)、結局、転送し返すことにしました。
スウェーデン人の同僚や友人と忌憚の無い議論をしてみましたが、外国人医師に対して差別の気持ちを持ったことはない、ということでした。
人種差別の旗振りともいわれる、スウェーデン民主党を嫌う人間が多いことが示すように、スウェーデンは移民に鷹揚で優しい社会だというのが、これまでのスウェーデンでの経験を通して言えることです。勿論、細かいことを言えば、差別がないとはいいませんが、日本での男性優位の差別社会の方が、むしろ激しいと感じます。
あっぱれ、スウェーデン。ありがとう、スウェーデン。







素晴らしいですね、私も米国在住時、いろいろ感じましたが、移民、人種のことに関しては「公正」を基本としないとどうしようもなくなります。地位の高い人ほど公正であること、公正だと見られることに気を使わなくてはなりません。日本で同様のクレイムがきたら間違いなく、それでは別の医師でと、丸く収めてしまうでしょう。男性優位もそうですし、地位が高いと思われる人の理不尽な言動にはがっかりすることが多いです。公正でなくても声のでかい人がまかり通るのが日本社会だと感じてます。ぼやき②でした。
鉄鉢袋先生。地位の高い人ほど、公正に、、、、。重い言葉です。医療現場において、地位の高い人の扱いは、日瑞で違いはあまりに明らかです。VIP病棟など、スウェーデンには存在しませんし、医師へのお礼もありません。
はじめまして。
同意です。
実は別のスウェーデン人歯科医に治療してもらったばかりのところに問題が発生したため、イラン人歯科医のもとで歯科受診をした経験があります。スウェーデン語がまだ完全ではないため結局英語で話してしまったのですが、その英語もきちんとした言葉遣いで、かつその仕事の手際の良さに感激。治療後、この歯の手入れ方法などを細かく教えてくれました。その後この歯に関して、問題は発生していません。
自らも移民でありながら、移民である優秀な医師からの治療を自ら拒否するなんて
勿体無いですね。上級医や看護師の対応、天晴れだと思いました。
りりあんさん。こちらこそ、はじめまして!
どの民族であっても、優秀な人も、そうでない人もいるに違いありませんが、プライベートが仕事に優先することが一般的なスウェーデン人の仕事ぶりに、頭にくることも多いです。私事ですが、私もいい加減なスウェーデン人歯科医にあたってしまいました。口腔外科への紹介状を書くと約束しながら、何回も催促しても、2年以上、放っておかれています。
しかしながら、スウェーデン人の差別に対する毅然とした態度は、素晴らしいと思います!