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新記録!

泌尿器科の守備範囲は非常に広く、手術は開腹術から内視鏡まで多岐に渡るため、全ての手術を習得するというのは、非常に難しいのです。また、この10年、20年における器材や手術法の進化も、外科系診療科の中では、もしかするともっとも変化したかもしれません。

 

私の最も興味のある分野は、何といっても「癌」であり、その中でも、膀胱癌、前立腺癌に取り組んでいます。

膀胱癌は、表層癌である場合は内視鏡による切除が可能ですが、筋層へ浸潤すると、膀胱を全部摘出しなければなりません。他の臓器のように、部分切除という選択は、通常の膀胱癌においてはありません(特殊な組織型の膀胱癌では例外あり)。膀胱を全部摘出すると、その後に「尿路再建」が必要になります。

四半世紀ほど前までは、「回腸導管」といって、小腸である回腸を20cmほど用いて、尿管を回腸へ縫合し、回腸の末端を皮膚から引き出し、ストーマとするのが通常でした。つまり、患者さんは、ストーマの上に採尿袋をつけるーお腹に袋をつけるーことになった訳です。

(Kidney and Urologyより)

 

現在は、いろいろな方法で、「新膀胱」を作成し、膀胱を尿道に縫合することによって、ストーマではなく、手術前と同じように尿道から排尿させる手術が多く行われるようになってきています。その中で、我々が行っているのが、Dr Studerにより開発された、Studer法による新膀胱。

(American J Roentgenologyより)

回腸をおよそ70cm利用して、口側15cmほど残して脱管腔化します(腸間膜の対側で切開する)。切開した部分を縫い合わせて一つの袋を作ります。その袋が最も骨盤に落ち込む部分に穴を開け、尿道と縫い合わせます。切開していない部分に尿管を縫い合わせます。通常の開腹手術で、膀胱全摘をして、回腸導管なら、2時間から4時間、Studer法による新膀胱なら5時間以上は時間のかかる大きな手術です。

 

この数年で、DaVinci手術ロボットを、前立腺全摘だけでなく、膀胱全摘にも使うようになっています。手術時間は開腹手術より長くかかりますが、利点としては、出血量が少ないこと、勃起神経を温存する手術が可能であること、新膀胱の場合、精度の高い尿道の操作ができるため、尿失禁の頻度が減ることなどがあります。私が3年ほど前に、スウェーデンで初めてロボット手術を見学したのが、実はこの膀胱全摘と新膀胱作成だったのですが、数例目ということもあり、10時間近くかかったことを記憶しています。

時間がかかるため、通常は2つの手術チーム(術者+助手)を用意するのですが、今日は交替要員なしで、教授と私の二人で通しです。教授が登場するまでに、腹腔内に6つのトロッカーを挿入し、ロボットを合体させなければなりません。トロッカーの位置が手術のやりやすさを左右するので、これは大事なステップです。患者さんは重度のCOPD(スウェーデン語ではKOL、慢性閉塞性肺疾患)のため、通常はかなり頭を下げる体位、まさに逆立ち状態に近い体位にするのですが(腸管をよけるため)、それができません。

 

しかし、もの凄い速さで手術は進み、手術時間は驚きの4時間台。出血量も500ml以内。輸血は不要です。これは新記録に違いありません。前立腺全摘と異なり、助手も非常に重要なので、私もとても嬉しかったです。

数日前には、エホバの証人の患者さんに同じ手術をしましたが、勿論、無輸血。開腹手術では、まず輸血は避けられないので、内視鏡手術でないとこの手術はエホバの証人にはできません。

しかし、手術は終わった後に疲れがどっときます、、、。

13 comments to 新記録!

  • こんにちは。

    新記録おめでとうございます・・・と申し上げてよいのかどうかわかりませんが、器材や手術法、薬もそうなのかもしれませんがこういう分野は日進月歩ですね。

    4時間台であってもその間集中力を継続しながらミスなく手術を行う、とても私なんかには想像できない世界です。

    お疲れ様でした。

    • ロボット手術では、ヨーロッパ一の施設で働けることを幸せに思っています。
      外科医としての考えは、いずれ書くつもりですが、長時間であっても、アドレナリンが沢山出ているときには、意外と頑張れるものです。原発で働いていらっしゃる方のことを考えたら、足元にも及びません、、、。

  • Cindra

    drpionさま
    はじめまして。Opの新記録、大変お疲れ様でした。
    そして、興味深くブログを読ませていただきました。
    20年ほど前看護師になったばかりの頃出会ったUroのストーマの患者さん達のことを思い出しました。ふと気付けば最近この手の患者さんには出会っていないかも…と。(膀胱がんの患者さんとお会いする事自体少ないのですが)

    Klinikenは違いますが同じ病院で働いています。どこかでお会いするかもしれないですね。その時はよろしくお願いいたします。

    • Cindraさん。はじめまして!

      カロリンスカには、複数の日本人勤務者がいらっしゃいますね。
      いつか、Fikaでもできるといいなと思います。
      Cindraさんは、どちらのklinikにいらっしゃるのでしょうか?

      院内を移動しているときは、たいてい急いで回りをあまり見ていない(笑)ことが多いので、日本人がいても気が付かないのかもしれません。

      こちらこそ、よろしくお願いいたします!

  • Cindra

    お返事ありがとうございます。
    Radiumhemmetで勤務です。
    ここ最近出会った膀胱がんの患者さんはたまたまなんでしょうが、2人ともOp前の化学治療の患者さんでした。Op後の患者さんもいらっしゃいますが、そう言えばストーマの方にはここ最近会った事がないかも…と思ったわけです。

    めったにHuvudbyggnadの方へは足を伸ばす事はないのですが、Pressbyraあたりでばったりということがあるかもしれないですね。

    • Cindraさん。お返事をありがとうございます。

      カロリンスカでは、手術適応のある筋層浸潤癌(T2-T3)は転移がなくても手術前に化学療法を行う約束になっています。手術後は病理でリンパ節転移が認められても、CTなどで転移が明らかになるまで化学療法はやってもらえないのですが、そのような患者さんは転移が発見されると全身状態が悪いことも多く、結局化学療法をしないで終わることも多いです。そんなこともあって、ストーマの患者さんが少ないのかもしれません。

      たしかに、RHだと売店もありますし、こちらまでいらっしゃることはあまりないかもしれませんね。

      ばったりお目にかかるのを、楽しみにしております!

  • 膀胱癌でブログ検索していて参りました。
    お訊ねしますが、この自排尿型人工肛門(ネオブラダー)が開発された当時は、女性は尿道の長さの関係から「ネオブラダーは出来ない」、と言われていた様ですが、いつ頃から女性に対する自排尿型人工肛門造設が行われる様になったのでしょうか?
    実は私が参加しているブログで、女性の方でこの自排尿型人工肛門造設を受けられた方がおられますので。
    お教え頂ければ幸甚です。

    私も膀胱癌が原因では無いのですが、膀胱が完全に萎縮してしまった為に10年前に膀胱全摘し、それ以後回腸導管による生活をしております。
    その当時私が手術した病院のDrはこのネオブラダーの技術を持っておらず、仕方なく回腸導管造設をしました。
    現在なら、当然この自排尿型人工肛門造設になったでしょうね。(^^)

    • 私が泌尿器科医として働き始めたのが、およそ20年ほど前になりますが、その頃が日本では、ネオブラダーの始まりだったと思います。その当時は、まだコック式の方が多かったように記憶しています。また、おっしゃるように、ネオブラダーは女性にはなかなか難しいとされていました。現在では、問題なく行われています。しかし、もともと女性の膀胱癌の方が少ないのと、術前に尿失禁などがある場合も多く、ネオブラダーの適応にならないケースが多いように思います。

      膀胱が萎縮とは、放射線治療や神経疾患、間質性膀胱炎などでしょうか。いずれの場合も、ネオブラダーの適応にはなりにくいのが現状です。

  • はじめまして、膀胱がんの治療に関して調べていて、ここにたどり着きました。突然失礼いたします。貴重な情報をありがとうございます。

    私の母はエホバの証人で、日本に住んでいて、T2の膀胱がんで、現在、次の治療のステップを考慮しています。無輸血で、可能であれば自排尿型で無輸血の手術を出来る施設を探しています。

    こちらの記事でお話ししている内視のロボットの手術を行う日本の設備をご存知でしょうか?

    • はじめまして。T2であれば、通常は膀胱全摘になります。その際、手術前に化学療法を行うと成績が良い、場合によっては癌が消えることもあります。予後を考えると膀胱全摘は避けられないところですが、無輸血となると、開腹で手術を引き受ける施設はほとんど無いのではないかと思います。ロボット手術であれば、開腹に比較して格段に出血量が少なくて済みますが、日本ではようやくロボット手術の適応が前立腺癌に認められたところで、これからという現状です。前立腺癌の症例数として日本で最も多い施設は、現在、東京医大だと思います。開腹手術では自排尿型を数多くやっている施設でもありますので、相談なさったらいかがでしょうか?ロボットで膀胱を摘出し、尿路変向は開腹して行うのが、最も危険が少なくなると考えます。

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