原子力安全・保安院は18日、福島第一原発の事故について、事態の深刻さを示す国際原子力事象評価尺度(INES)の暫定評価を、米国スリーマイル島の原発事故と並ぶ「レベル5」(広範囲な影響を伴う事故)に引き上げました。
とはいうものの、放水による冷却作戦が効を奏しているのか、状態は比較的安定しているようにも感じられます。また、送電を再開させる作業も進んでいるとのことです。
日経メデイカルオンライン版に、「緊急被ばくの事態への対応は冷静に」というタイトルで、放射線科医である、北海道がんセンター院長の寄稿があり、医療者以外の方にも参考にしていただきたいと思いましたので、ここで引用させていただきます。
(前略)
Sv (線量当量)とは、人体への放射線の影響を考慮して設定された線量を示す単位である。放射線障害防止法などの法令が定める一般人の年間の被曝線量限度は 1000μSv(=1mSv)とされているので、確かに大きな線量である。なお、医療従事者や原発従業員などの職業被ばくの年間線量限度は最大 50mSv(100mSv/5年)である。この事態に対して、原因や問題点などに関して今回は論じることは控え、健康被害についてのみ論じたいと思う。
人類は宇宙や大地から、自然放射線を受けており、日本では年間2.4 mSvの被ばくを受け、医療被ばくを加えると日本人一人平均約5 mSv(5000μSv)の被ばくを受けている。また東京一ニューヨーク間の往復では宇宙からの放射線が多く、0.19 mSvの被ばくを受けると言われており、低線量の放射線被ばくは日常的なものなのである。
しかし、放射線は被ばくしないに越したことはない。放射線防護のテクニックとして、(1)距離(2)時間(3)遮蔽-の3原則がある。
(1)距離は、放射性物質からできるだけ離れることであり、これは遠くへ避難することである。放射線の量は距離の二乗に逆比例するので、原子力発電所から 1Kmの地点での放射線量を1とすると10Kmの地点では1/10×10=1/100 となり、100分の一の被ばく量となる。20Kmの距離に避難すれば、400分の1となる。
(2)時間はそのまま加算されるので、同地点に1時間滞在よりも1日滞在すれば、24倍の被ばく量となる。
(3)遮蔽は放射線の種類やエネルギーによっても異なるが、密度の高い建材で造られた室内に退避することにより、外部からの放射線をより多く遮蔽すること ができる。屋外にいるよりも木造建築の室内にいれば建造物が遮蔽体となりより少ない被ばく線量となる。さらにコンクリート造りの室内では低減する。
さらに空気中に含まれている放射線物質からの被ばく量の低減のために皮膚を露出しない服装と帽子の着用、内部被ばくを避けるためにマスクの着用などを心掛 けることである。また、現場で考えることは放出された放射性物質は風によって運ばれるので、風上方向への避難が重要であるが、時間的経過で風向きも異なる し、現実的に海の方向へ逃げることはできないので、とにかく(1)距離と(2)時間の原則を考えて対応することとなる。
また放射線防護 剤(内容はヨード剤)の配布が緊急被ばく医療の対応マニュアルに記載されているが、ヨードを多く含む昆布などの食品を食べながら避難することが現実的であ る。ヨウ素は甲状腺に取り込まれるが、事前にヨウ素を摂取し、甲状腺のヨウ素量を飽和させることにより、放射性ヨウ素が環境中にあっても、甲状腺に取り込 まれないようにする対応である。
(中略)
なお放射線が人体に与える影響は被ばくの時間的・空間的(被ばく範囲)な違いも考慮することも重要である。(1)急性被ばくか、慢性被ばくか、(2)全身被ばくか、局所被ばくかによって、人体への影響は異なる。
(1)の時間的な問題としては、例えば日本酒1升を一晩で飲むのと、毎日晩酌で少量づつ1カ月間で飲むのとでは、人体への影響は異なる。放射線の影響も同 じようなものと考えられる。(2)の問題としては、厳密には全身被ばくの場合と同一ではないが、胸部単純写真の撮影では0.06mSv(60μSv)、胃 のバリウム検査では0.6mSv(600μSv)、胸部CT 検査では6mSv(6000μSv)の局所被ばくを受ける。今回の被ばくは急性の全身被ばくであるが、極めて低線量であると考えられることから問題となる ことはない。
全身の急性被ばく時の人体への影響は、250mSv(250,000μSv)以下では臨床的な症状は出現せず、影響はない。また500mSvで白血球の一 時的な現象が見られ、1000mSv以上で吐き気や全身倦怠感が見られると言われている。こうした医学的な見地から見れば、今回の被ばく者の健康被害は深 刻なものではない。避難住民に対し放射線被ばくによる健康影響について説明を行い冷静に対応すること、また汚染の程度に応じて、適切な除染処置や予測被ば く線量を把握し、必要ならば医療機関への搬送が望まれる。
(後略)
少なくとも、現状より事態が悪化することがなければ、一般国民の被曝に対するリスクは非常に小さいといえます。
しかし、原発で復旧作業に当たっている方々の被曝線量が100mSvを超え始めているとのこと。作業員の被曝線量の上限は、100mSvから250mSvに引き上げられたばかりですが、国民の命を守るために懸命に働いている彼らの健康に対する影響が心配されます。
急性被曝時の早期症状を示す図です。
何とか、最悪の事態にならないこと、そして、原発で頑張っていらっしゃる方々の無事を祈るばかりです。










こんにちは。
>作業員の被曝線量の上限は、100mSvから200mSvに引き上げられたばかりですが、国民の命を守るために懸命に働いている彼らの健康に対する影響が心配されます。
原文(おそらくhttp://www.icrp.org/publication.asp?id=ICRP%20Publication%2060)が確認できませんので伝聞になってしまいますが、朝日新聞の記事(http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103150475.html)によればICRPの基準では重大事故時の緊急作業での被曝線量の上限を計500ミリシーベルトになっているそうです。なお、国内の複数の報道によれば上限値は200mSVではなく250mSVに引き上げられたとされています。
250mSVというのはICRPの基準も当然考慮し、さらに健康に影響のないレベルとして余裕をもった基準として特別なケースとして決められたものだと思います。また、現場の作業員は線量計を身につけて、きちんとした放射線管理のもとで作業をしているはずですので身体的な影響と言う意味では大丈夫だと思われますが、このような極限状態で作業をするという心理・精神的なプレッシャーの影響の方が心配に思います。
PS.
変換ミスと思われますが、通常放射線にさらされることを表す場合「爆」ではなく「曝」の方を使うと思います。前者だと爆撃を受けるという意味になってしまいます。
早速のコメントありがとうございます。
200mSVは間違いで、250mSvが正しいですね。私の単純タイプミスでした。訂正させていただきます。
私が心配しているのは、予期せぬ急激な状況の悪化があった場合のことです。現場で働いている方は、その意味でまさに命を賭けていらっしゃるのだと。
被爆と被曝が混在していますね。お恥ずかしい限りです。「被曝」に統一させていただきます。
再度のコメント失礼いたします。
>私が心配しているのは、予期せぬ急激な状況の悪化があった場合のことです。現場で働いている方は、その意味でまさに命を賭けていらっしゃるのだと。
文面から被ばく線量を引き上げたことについて先生が心配をされてらっしゃるのかと過大に受け取ってしまい、あれこれとつい書いてしまいました。どうかお許しください。
「被爆」であれ「被曝」であれどちらの字もあまり目にしたくない字ですね(笑)。
ご丁寧にフォローをありがとうございます。
これからも、厳しくて優しいつっこみを、よろしくお願い致します!