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インパクトファクター(impact factor)

今日は、インパクトファクター (impact factor, IF)についてなど。エキスパートの方はどうぞスルーしてくださいませ。

IFは、自然科学社会科学分野の学術雑誌を対象として、その雑誌の影響度を測る指標。The Institute for Scientific Information (ISI)の創始者であるEugene Garfieldが1955年に考案したもの。現在では、ISIはトムソン・ロイター社の一部となっており、そのデータベースJournal Citation Reportsから毎年IFを算出している。対象となる雑誌は自然科学5,900誌、社会科学1,700誌である。

雑誌ごとのIFは次のように計算される。
例えば、最も新しい2009年のIFであれば、
1) 当該雑誌に過去2年間(2007年と2008年)に掲載された論文数
2) 1)の論文が2009年に引用された回数
から、2)÷1)で求められる。つまり、論文1つあたり何回他の論文に引用されたかという指標であり、大きければ大きいほど、影響度が大きいと解釈される。

IFの数字にはいろいろなファクターが影響する。例えば、この表で最もIFの高いA Cancer Journal for Cliniciansは隔月に発行され、論文数はわずか23編。大規模な疫学統計や総説などが中心である。論文数が少ないのと、内容で、当然、引用回数は多くなる。1論文あたり80回という計算になる。The New England Journal of MedicineThe Lancetは主に臨床症例に関係する論文を取り扱う。IFトップ10には、REVと示された、つまり総説を扱う雑誌が複数あり、これは、原著論文を扱う雑誌と同じようには比較できない。

研究者の端くれであれば、原著論文が高いIFを持つ雑誌に掲載されることを夢見るものであり、夢は、Nature(IF34.5)やScience(IF29.7)、Cell(IF31.2)といったスーパー雑誌。しかし、高いIFの雑誌に掲載されたから、良い研究であるかといえばそうとも限らない。一時的にセンセーショナルな話題をさらうだけではなく、本物であれば、永きに渡って引用されるはずである。従って、引用数が時系列でどのように変化するかなども計算されている。教授ポストの選考などには、応募者の業績、つまり、論文数やそれら論文が掲載された雑誌のIFの総和を計算することがしばしばある。前述の理由によって、必ずしもそれが研究のクオリテイーを示すものであるとはいえないが、選考に際しては非常に重要である。

業績の評価では、論文数だけではなく、論文の著者の中で、どの位置に名前があるかも大事である。海外では通常、学位の指導者の名前が入った論文は、独自の研究とはみなされない。学位取得後、研究者の道を進み、少なくともprincipal investigator(PI)を目指すとすれば、学位取得の際の指導者の名前が入らない論文を発表しなければならない。その際も、筆頭著者または末尾著者であるか、corresponding author(論文の責任者著者)が価値があるもので、多数の著者の間に名前が入っている場合のインパクトは少ない。そこで、共同研究者間でどの位置に名前を載せるかで、喧嘩になることが良くある。

ポスドク時代に手掛けた研究が、Cellにほぼアクセプトされたか、というところまでいったことがある。フルタイムでおよそ2年がかりの仕事だった。2年がかりというと長いように感じる方もいらっしゃるかもしれないけれど、2年の仕事でCellに掲載されそうなデータが出るなら、それはとてもラッキーなこと。そのときの私の共同研究者は、既に、NatureやNature Neuroscience、PNASなど夢の雑誌に原著論文を持つ強者。Cellにアクセプトされそうになった状況で、筆頭著者争いの喧嘩になった。私には自分が最も研究に貢献したという自負があったから、あくまでも抵抗し、結局、筆頭著者2名、但し、順序は私が筆頭というところで合意した。しかし、研究室のボスがしっかりしていないと、こんな争いが起こるのである。結局、このラボでは、私は3つの論文から名前を外された。もともと、日本へ帰る予定のポスドクなど、虫けらみたいなものと考えるボスもいるのだろう。そのうちの一つは、短期留学できていた中国人の大学院生を私が指導したものだったので、流石に切れそうになったが仕方がない。結局、Cellに載りそうだった論文は、最後の詰めでこけてしまった。数年前に発表されたものだが、最近、これまでの引用回数が100回に近くなったことを知り、やはり良い論文だったのだと安心するとともに、嬉しく思った。

しかし、研究者の世界もどろどろとしている。データ捏造などは論外だが、良いポストを得るために、あるいは名声のために、データ捏造をする人間は常に存在する。少し前に阪大医学部・内分泌代謝学の下村伊一郎教授が起こした論文捏造事件。

これは、捏造問題で取り下げられたNature Medicineの論文である。筆頭著者は医学部学生。最後の筆者は、「Shimomura」とあり、その名前の後には、この著者が論文に関する責任を負うという意味の番号がつけられている。それにも関わらず、下村教授はこの論文に関して学生の指導をしなかったとし、捏造問題の責任回避をしようとした。結局14日の停職になっただけ。もう5年も前の事件であるが、責任を負うべきボスである教授が、医学部も卒業していない学生に責任を押し付けたことに、大きな憤りを感じたことを覚えている。

研究者という職業は本当に大変だ。臨床現場で働く医師より、ある意味、ずっと過酷だと思う。日本の研究者は、例えば、教授になれば、業績が出なくても未だに辞めさせられない、無期限の職も多い。こちらで周りを見回すと、教授であっても業績が足りずに、研究費はおろか、自分の給料の工面もできない人もいる。医師であれば、その日のスケジュールに沿って働けば毎日が過ぎてゆくが、研究者はそうはいかない。いかにモチベーションを保ち、研究を継続するか。研究にしても、自分が面白いと思ったり、高いIFを狙うような研究だけではいけない。研究費を取るために論文にするのにリスクの低い研究もしなければならない。PIになったら、大学院生やポスドクの人生もかかってくる。研究者とは自転車を漕いでいるようなもので、漕ぐ足を止めれば倒れてしまうのである。

そんな訳で、Cellに手が届きそうになった頃、思わず舞い上がって、研究一本で生きるのもいいなと、愚かな夢を見たこともあったが、所詮、私には無理と悟った。もしCellにアクセプトされていたら、人生間違っていたかもしれない。Cellクラスの雑誌に筆頭著者の論文が1本あったら、向こう5年くらいの人生設計に影響する可能性があるから。生命科学分野における基礎研究とは、人類に還元されることを目的としてなされるべきもの。だから、臨床に関わる一医師として、所謂、「ベッドからベンチへ」、臨床の観点から研究に関わることは大事だと今でも信じているし、研究の時間が少しずつ取れるようになったらいいなと思っている。

そろそろ、ノーベル賞受賞者の発表の季節。今年の医学・生理学賞候補には、日本の誇れる山中先生の名前が挙がっていると聞く。山中先生は、頭脳と、パッションと、人柄を兼ね備えた研究者という印象があるので、是非、今後の日本を盛り上げて戴きたいと期待している。ノーベル賞は確実。問題は「いつ?」。今年?来年?

スウェーデンの社会保障の裏側

一通のメッセージが職場のメールボックスに入っていました。

「再診のお知らせが届いたのですが、私の今の経済状況で再診料の320クローネは払えないから、予約はキャンセルさせてください。もし、研究などの目的があって、無料で診てもらえるなら、喜んで行きます。」

差出人は70歳代のスウェーデン人の男性。

私が担当している外来は、大学病院の専門医の外来。ストックホルムでは、専門医受診は320クローネの受診料がかかります(2010年)。街の診療所の医師受診であれば、150クローネ。1年間の最大支払額が決まっており、支払いが900クローネを越えるとFrikortというカードが発行され、それ以上の支払いはする必要はありません。

受診料だけでなく、処方箋による薬の購入も、最大限度額が1年間あたり1800クローネと定められています。

余談ですが、最大限度額を越えたあとに処方される薬については、医師による「変更不可」の指示がないかぎり、同成分で安い後発医薬品に薬剤師が独断で変更するようになります。

前述の経済事情により受診をしたくないスウェーデン人男性。福祉大国スウェーデンでもこんなことがあるのです。

大学病院へは、スウェーデン人だけではなく、当然、移民、難民も受診します。

国連が定める難民に対しては、LMA(lagen om mottagande av asylsökande)カードが、移民局から発行されます。

これにより、難民は特別低額にて、医療を受けることができます。

因みに、街の診療所医師受診は50クローネ、診療所からの紹介状があれば、専門医受診でも50クローネ。

一回一医師一処方箋あたりの最高支払額も50クローネ。スウェーデン語および英語ができなければ、無料で通訳も頼むことができます。

数日前に診察したソマリア人の女性。スウェーデンで3回帝王切開をしています。しかし、スウェーデン語は全くできず、通訳とともに受診。二人とも、ニカブ着用。ニカブのいでたちをした人の膀胱鏡は流石に初めてでした。印象的だったのは彼女はとても美しい歯を持っていたこと。スウェーデンで通常診療科以上に実はお金がかかるのが歯科受診です。一回に1000クローネを越えることは珍しくありません。しかし、難民に対しては、1回受診わずか50クローネ、、。これは、彼女の美しい歯をみて私が妄想したこと。

スウェーデンで診療をしていて、ときどき考えることは、これだけ、移民難民に手厚い社会保障が、本当に継続できるのかということ。

例を挙げればきりがありませんが、、、。少し前に入院していた某国からの難民。実は隣国へも難民申請をしていて、その間に進行した膀胱癌が発見されました。隣国で放射線治療を受けましたが、スウェーデンの方が良い暮らしができそうだということで、スウェーデンへ入国。2年以上の収監となる罪でなければ、病院としては報告義務はない、というか、それ以前に、守秘義務があるようで、このケースも、移民局が知れば隣国へ送り返されるところですが、移民局は新たな難民申請のケースとして審査を開始します。彼には、既に4人の子供がおり、妻は妊娠中。ヘビースモーカー。当然、膀胱癌は喫煙が原因であろうことが推測されます。医師との面談には、某国の言葉でも特別な方言を話す通訳が必要。私が病状説明目的で面談をすると、「私の家族には今のアパートは小さすぎる。洗濯機もない。大きなアパートと洗濯機が、医学的に必要だという証明書を書いてくれ。」

流石の私も、心の中でぷっつんしてしまいました。

「私ができることは、あなたの病気の治療に関してであって、大きなアパートを手配することじゃない。」

スウェーデンに20年以上も住んでいるのに、通訳が必要な難民。

スウェーデン人以上に要求の多い難民。

スウェーデン人では殆どいない、「専業主婦」の多いこと。

難民を受け入れるということは、こういうことも含まれるんだ、と実感します。

難民とは無関係ですが、外来で多くみかけるのが、「疾病による早期年金受給者、(sjukpensionär)」です。

多くは、働けないほどの病気を抱えているとは思えません。

現在の政府は、sjukpensionärと認定する条件を厳しくし、新規sjukpensionärを50%にまで削減しました。このことを野党連合は、個別の不幸な例をいくつも提示して、与党を攻撃していますが、医療現場にいると、与党の方針は正しいと思えます。働きたくなくてsjukpensionärになろうとする人間を出来るだけ減らす努力をした上で、救われるべき人が制度上漏れてしまうのであれば、制度を修正していくべきではないかと。

「働く人が報われる」べきだと考えている私にとっては、今回、社会民主党が惨敗した(最終的な結果は明日明らかになりますが)ことは、おおいに歓迎します。スウェーデン人だけでなく、移民であっても、社会保障制度に、おんぶにだっこという状態は好ましくないと、医療現場で感じるからです。ですから、スウェーデン民主党の国会への参加で、良い形での移民問題の議論が行われることを期待しています。しかし、職場でも、スウェーデン民主党の話題が出ましたが、やはり「ラシスト」だという評価のようです。南スウェーデンには住みたくないな、、と感じてしまいました。

受診料が払えずに受診をキャンセルするスウェーデン人。どうして受診料が払えないのか、バックグラウンドは定かではありませんが、頑張って働いている人が報われなかったり、難民の方が逆に受診しやすかったりという社会現象に、いろいろと思いを馳せました。

この記事では、「移民を受け入れることのデメリット」が強調されてしまったかもしれませんが、実際にはデメリットばかりではありませんし、移民でも頑張っている人は沢山います。

私の同僚にも数名、戦争難民がいますが、彼らはとても真面目で優秀な外科医です。手術室を掃除してくれる難民の女性は、スウェーデン語も堪能だし、まじめだし、いつも明るく挨拶してくれる。やはり、「移民」が、「スウェーデン人」が、「日本人」が、ということではなく、個人の意識の問題なのでしょう。

院内感染予防

日本では多剤耐性アシネトバクター事件で警察が介入すると報道されるなど、大きな騒ぎになっているのを見守っていました。

もともと、こんな弱毒菌は、健康であれば何の害もないもの。抵抗力のない患者さんへの日和見感染だから危険なのです。そもそも、重篤な原疾患があるので、日和見感染が死因かどうかを判断するのも難しいのではないのでしょうか。

この事件に関してのコメントは、専門家の先生方に譲るとして、スウェーデンでの院内感染予防や感染症の扱いについて、少しだけ述べたいと思います。スウェーデンでは、「感染症科」という独立した診療科があります。カロリンスカでも、感染症科の日直やオンコールがいて、耐性菌にかかわらず、抗生剤の選択や投与法をいつでも相談できるようになっています。細菌培養室にも専属の医師がいて、血液培養で陽性となると、逐次、担当医師に連絡がくるため、時を逸せず適切な抗生剤の投与が可能です。

MRSA陽性患者さんには、「MRSA陽性カード」が発行され、外来での扱いが特別となるのは勿論のこと、入院の際には、感染症病棟にしか入院ができません。勿論、この感染症病棟は全室個室です。

細菌ではありませんが、ときどきノロウイルス感染が顕在化することがあります。その際には、病棟を全閉鎖するなどの対応も取られます。

多剤耐性菌の出現は、抗生剤を多用する環境では避けて通れないもの。しかし、日瑞の医療現場や患者さんの意識には、大きな差があります。

スウェーデンの街の診療所で、抗生剤が処方してもらうためには、細菌感染であるという証拠が無い限り、非常に難しい。医師は、安易な抗生剤投与は、耐性菌を作ることになるので、簡単には処方しません。それが、患者さんにも徹底していて、患者さんも医師に処方を無理強いすることはありません。日本では、単なる風邪でも抗生剤がたいて処方されます。もともと、ウイルス疾患なので、抗生剤が有効であるはずがありません。大学病院における周術期の抗生剤の予防投与についても、以前も述べたとおり、日瑞では大きな差があります。私が研修医だった頃の話。病棟のある引き出しには、曜日毎に処方すべき静注抗生剤のリストが入っていました。ときには、2剤を投与することもありました。医局近くの廊下には、MRさんが並んでいて、「xx(製薬会社の名前)です。いつもお世話になっております。oo(抗生剤の名前)、ちょっと苦戦してるんですよねー。よろしくお願いいたします。」といったような会話を、耳にたこができるまで聞きました。「鉄人」のレストランでご馳走になったりもしました。男性医師に対しては、歌舞伎町ツアーもありました。

脱線してしまいましたが、抗生剤に対する意識は、日瑞ではとにかく大きく異なります。

では、感染予防についてはどうでしょうか。

日本で私は複数の大学病院を経験しましたが、医療従事者自身の衛生管理という点で、日本は劣っていると思います。

日本では、医者や看護師が、指輪や時計をしているのは当たり前ですが、スウェーデンでは禁止されています。

この写真は指輪や時計などから培養して、細菌が検出されるということを示しています。また、長い髪の毛は結ぶこと、私服は着用せず、白衣は原則として、毎日新しいものに交換するとともに、病棟や外来では、長袖の白衣は禁止です。袖があることで、感染を媒介する可能性が高くなるからです。患者さんの処置をするときには、白衣の上に必ず、使い捨てのビニールの前掛けを付けなければいけません。回診の際も、一人回診するたびに、手のアルコール消毒をします。

日本では、例えば外科医であっても勤務中に指輪をしている人もいます。時計は殆どの医師がつけているのではないでしょうか。少し前に母校に寄ったら、長い髪の女医さんが、ハイヒールを履いて、派手な洋服の上に白衣を着て、さらに白衣の前を開けて、勿論、指輪もつけて闊歩している人を結構見かけて、非常に違和感を覚えました。男性医師も、黄ばんだ白衣、白衣の前を開けて、ネクタイがひらひら。

スウェーデンに移住したのはおよそ3年ほど前ですが、その直前まで勤務していた大学病院の手術場では、まだ手洗い用にタワシを使っていました。

こんなタワシと、

イソジンで手洗いをするのが、以前は普通でした。

スウェーデンの手洗い場はこんな感じ。

液体石鹸で手を洗ったあと、通常のティッシュで水分をふき取り、

アルコールで消毒するだけ。

3年も経てば浦島太郎。日本も変わっているのでしょうか。

院内感染を最小限にするためには、医師の白衣の着用法や、指輪などについて、自己改善努力をした方が良いのではないでしょうか。

マスコミを安易に信ずるべからず

今日の読売新聞の記事を読んで、思わず怒りが込み上げてきた。

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最新の医療ルネサンス・医療企画とは
シリーズ がん検診(4) 悪性度低ければ経過見て

東京都の会社員、染谷峰雄さん(48)は2010年6月、慈恵医大病院(東京都港区)で、前立腺がんと診断された。09年12月に受診した人間ドックで、前立腺がんの可能性を調べる血液中のPSA(前立腺特異抗原)の量が、1年前の1・1(ナノ・グラム/ミ リ・リットル)から、7・6に上がっていた。正常値(4以下)を上回り、上昇ぶりも急激だったため人間ドックの医師から詳しい検査を勧められた。

同大病院で前立腺に針を刺して組織を調べる検査を行ったところ、8本中1本から、がんが見つかった。ただ、染谷さんは現在、手術や放射線などの治療は受けていない。

PSA値は基準を超えたとは言え、やや高い程度で、組織検査でもがんの悪性度は低かったことから、急に悪化する心配は少ないためだ。3か月ごとに PSA値を測り、経過を見る。染谷さんは「検査に時間が取られるが、がんが見つかり、よかった。医師の丁寧な説明で不安もない」と話す。

PSA検診は、数多くの早期がんを拾い上げる。ただ、前立腺がんには進行が遅いがんもあり、がんが進まないうちに、天寿を全うできる場合も多い。

結果的に死に直結しないがんと、治療すべきがんを見分けるにはどうすればいいか。その答えの一つとして期待されているのが、染谷さんが受けている 「PSA監視療法」だ。定期的にPSA検査を続けながら悪化の兆しが見られた時に手術をしても、病理検査の結果には差がなく、経過を見て手術をしても問題 のない可能性があることが、最近の研究でわかった。

今年からは、長期的な死亡率に差が出るかどうかを調べる国際的な大規模比較試験も始まった。同大泌尿器科教授の頴川晋さんは「監視療法の研究が進めば、不要な治療を減らすことができ、患者の負担も軽くてすむ」と話す。

PSA検診をめぐっては、死亡率を下げる証拠が不十分だとして「(住民検診は)勧められない」とする厚生労働省研究班と、進行がんを減らすために「検診を推奨する」という日本泌尿器科学会の意見対立がある。

ただ、医学的な論争をよそに、PSA検診は国内で広がりつつある。09年時点では、全国の市区町村の64%にあたる1163団体で住民検診に前立腺がん検診(PSA検査)を組み込んでいる。

PSA検診で「異常」が分かっても、いたずらに不安を抱くことなく、過剰診断・過剰治療があることを頭に入れて、主治医とよく話し合うことが必要だ。

2010年8月31日 読売新聞)

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48歳男性の前立腺癌。前立腺癌の患者さんとしてはかなり若い。平均寿命に達するまでに30年もある。しかも、悪性度はあまり高くない癌で、PSAは7,6。これって、十分高い値じゃないの?
待機療法なんて、冗談じゃない。どう考えたって、積極的治療以外ありません。常識的に考えたら外科的治療が適応です。
厚生省の研究班のPSAに関する指針が出たときも、怒りが込み上げた。おっしゃるとおり、治療しなくても良い前立腺癌もあります。しかし、現状で、治療しなくても良い癌と、治療しなければならない癌を区別する方法はありません。では、指針を出した厚生省の役人が前立腺癌になったら、経過観察を望むのでしょうか?お尻に火がついたように、治療へ走るに違いありません。私もスウェーデンでは、たまに経過観察する患者さんもいます。しかし、48歳なんて、絶対にありえません。慈恵の頴川先生は前立腺癌に詳しいはずだから、これは何かの間違いか。
マスコミの影響は巨大です。こんなとんでもない記事を信じた人達が、間違った選択をしないことを祈るばかりです。
世の中に出回っている医療情報には、間違っているものが実に多い。
「良い病院や医師」のリストなどもあるけれど、これも真っ向から信じたらいけない。そもそも、ベストの病院選びというのは、「この疾患で、この手術ならこの先生」というものであって、「○○大学病院」なら安心、なんてことはありえません。名医がいたとしても、受診日が一日ずれただけで、他の医師にあたる可能性もあるし、実力のない医師に当たった時点ではずれです。また、「教授」に診てもらったから喜ぶのも浅はか。もともと、日本の教授の中には、論文の数だけで教授になった人も数多くいて、同時に臨床で名医であるとは限りません。少し前に、以前私が働いたことのある大学のうちの一つであった話。ある有名人が癌で入院。その癌の専門科の教授は、外遊中。スポーツ新聞に、「○○癌の名医、海外から緊急帰国」なんて一面に大きな記事がでました。そして、その患者さんには適応がないと思われる最新技術を使った手術が行われました。勿論、教授はその手術は出来ません。こっそり外から名医を呼んできて、休日に人払いの上手術を決行。噂によると、患者さんは8桁の謝礼をしたとか。因みに、その教授は、「白い巨塔」の権化みたいな人で、人格者とは程遠い。
名医選びというのは本当に難しい。今の病院だって、一緒に働いて、自分も熟知している手術を一緒にして初めて、その先生が出来るかどうかがわかるのです。気持ちのある先生かどうかも。ですから、自分の専門領域についても、名医を複数あげるのは、結構難しいことなのです。
ある程度の情報を得たら、その先生に会ってみて、「この先生なら命を預けても良いかな」と思えるかどうかで決めるしかないのでしょうね。
とにかく、マスコミを安易に信ずるべからずです。
こんな記事を掲載するなんて、腹が立って仕方がありません。

モンスターペイシェント

日本ではモンスターペイシェントが増えていますが、スウェーデンでは殆どお目にかかることはありません。

以前にも述べたように、スウェーデンにおける医療過誤の扱いは日本とは全く異なります。

患者さんからの訴えにより、社会保険庁(Socialstyrelsen)や、HSANが事実関係の調査と判断を行いますが、患者さんが被った障害に対する保障は、このプロセスとは無関係に行われます。患者さんが医療従事者を相手に賠償金を争うことはないのです。以前の記事はこちら

ですから、スウェーデンにおける「モンスターペイシェント」に近い患者さんは、医療従事者のミスを追求するのではなく、より良い対応を受けることが目的のことが多い訳です。

少し前にこんな患者さんがいました。

持病の慢性疾患があり、それに加えてアルツハイマーも発症。度々感染症などの問題を起こすのですが、奥さんが欧州のある先進国で医師として働いていた関係で、その国で処方された薬を使ったりもしていたよう。今回は、老人病院から敗血症の疑いで救急外来へ送られてきました。最初のCTで、腎盂腎炎疑いということで泌尿器科に入院しましたが、結局その後、胆石も見つかり、胆嚢炎ということになりました。当然、外科へ紹介状を書くのですが、「手術適応なし」ということで、引き受けてもらえません。患者さんを動かすのに2人が必要、すぐに不穏になるなど、非常に手がかかります。その上、家族の要求が尋常じゃない。朝も夕も誰かがつめていて、なんだかんだと苦情を言ってくるのです。老人病院に送り返すには、点滴が外れなければならないので、静注薬を内服に変えるのですが、家族が静注薬を注文してくる。利尿薬のためカリウムが下がってしまい、それを補う点滴をすれば、いつの間にか点滴の速度が全開になっている。

ストックホルム近郊の老人病院10件以上に、転院の紹介状を送りましたが、全部却下。コミューン(県)単位の医療サービスがあるのですが、そちらは、中心静脈ラインがあると引き受けてくれない。スウェーデンには、救急病院に入院適応がないけれど、高度の医療を必要とする患者さんに対する医療サービスで、Avancerad sjukvård i hemmet (ASIH)というシステムがあります。在宅でも、医師や看護師による治療を受けることができます。中心静脈ラインの管理もしてくれます。しかし、実際にこのシステムで面倒を見る患者さんは主に癌の患者さんで、この患者さんのように、慢性疾患で高度医療が必要でも、良性疾患であれば受けてもらえない。

泌尿器科病棟への入院は数週間に及び、患者さんを退院されるためのミーテイングが何度も開かれました。

家族からは、「何でも良いから癌の病名をつけてくれ。」という話まで出ました。

スウェーデンでは良く「resursが無い。」という表現を使います。英語の「resourse」と同義です。

この患者さんの受け入れを断ってくる理由の殆どが、「resursが無い」ことです。結局、それを話し始めると、政治問題となり、医療の中でどの分野に政治家が重きを置くか、ということになります。日本の大学病院と異なり、あくまでも大学病院は救急病院です。癌の末期を始めとして、大学病院でなければできない治療の対象にならない患者さんは、即刻転院させるのが原則です。

モンスターペイシェントの話から、医療システムの話になってしまいました、、、。

しかし、日本でもスウェーデンでも思うこと、、。要求の多い患者さんは、何故か治療がうまくいかないことが多いのですよね。嫌われる患者さんに対して異なる治療をする訳ではないのに、合併症が起こったり、、、。医療現場で働いている人は、自分が病気になったときは、なるべくかわいらしい患者さんになろうと思っている人は多いのではないでしょうか。

結局、この患者さん、転院ではなくて自宅へ退院となりました。この次に救急へ受診したときには、適切な診療科が主治医になることを祈るばかりです。

ロボット手術

最近、ロボット手術についての記事を書きました。その記事はこちら

熊本の千田先生のブログでもトラックバックしていただきました。

術者の指の動きが縮小されてロボットの鉗子に伝わるのですが、指の動きと鉗子の動きを比較したビデオを同僚から貰ったので、ご紹介したいと思います。

病欠

先週は夏休みでお休みを取っていました。夏休み前の一週間の勤務があまりにハードで、滅多に病気にならない私もついにダウン。

1日くらいおとなしくしていれば、夏休みを楽しめるかと、たかをくくっていましたが、高熱、胸痛、呼吸困難、また感染性喀痰もみられ、肺炎と自己診断。手持ちの抗生剤を倍量内服しながら、結局、一週間療養生活を余儀なくされました。

療養中に友人と話をしたら、

「病欠届けを出さなきゃ駄目!病気で夏休みの期間を使うなんて!」

と言われ、びっくり仰天。

病欠届けを出して、夏休みはまた別の機会に取るなんて、日本人医師の感覚としてはありえません。

スウェーデンでは、1週間以内の病欠であれば、自己申告で可能です。1日目は無給ですが、2日目からは上限ありで80%の給料(手当て)が、保険庁(Försäkringskassan)から支払われます。

1週間以上の病欠では、医師の診断書が必要。私も、多くの診断書を書いています。




病名と病状、今後の見通しについても記述します。



そして、患者さんの病状を、通常の勤務可能な状態に比べて、1)4分の1低下、2)2分の1低下、3)4分の3低下、4)勤務不可の4段階で評価し、それぞれに該当する期間を記入します。私が書く診断書の多くは、入院が必要な、主に手術後についての診断書なので、診断書を発行することに問題はありません。しかし、外来ではなんだかんだと理由をつけて診断書を請求してくる患者さんも多く、毅然とした態度で臨まなければならず、対応が大変です。「尿失禁があるから働けない。」とか、「カテーテルをつけたまま働くのは厭だ。」とか、数え上げたらきりがありません。とにかく、隙あらば、傷病手当を受給して働きたくない人が結構います。

日本では、休暇中に病気になっても、それに替わる休暇を取ることなど考えられませんが、ここはスウェーデン。私もコミューン税(地方税)として所得のおよそ20%を支払い、更に国税を支払い、私の雇用者は私の給与の倍近い社会保障費を国に払っていますので、利用できる制度は利用してみなければと思い、職場へ電話連絡。あっという間に1週間の病欠扱いとなりました。

今度、いつ夏休みが取れるのかは別として、高負担ではあるけれど、人間らしい生活が保障されているスウェーデンの社会に感謝です。

まだ体調は本調子ではありませんが、昨日はロボット手術2件、今日は膀胱全摘術とハードなスケジュールに追われている毎日です。


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