今回、私にとって印象深かったのは、やはり、生理学・医学賞です。以前勤務していた大学病院で、手の施しようのなくなった腎臓癌の患者さんに、樹状細胞を使った独自の免疫療法を行っていたこともあり、研究内容にも興味がありました。同時に、樹状細胞を発見したRalph M. Steinman氏が、受賞発表3日前に膵臓癌のため命を落としていたという逸話も加わって、非常に印象深い賞となりました。
今回は、ランチタイムを使って、前立腺癌に対する新薬の説明会がありました。前立腺癌の腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)が臨床の現場で使われるようになってから20年ほどが経ちました。そもそも、1991年にNew England Journal of MedicineにPSAが前立腺癌検出に有用な腫瘍マーカーであることが発表されたのが始まりです。PSA導入以前では、前立腺癌を早期に発見することは難しく、当時はD2癌(骨転移あり)が多かったように記憶しています。前立腺癌全摘は転移のない早期の局所癌に対して行われるため、手術症例自体、殆どありませんでした。早期癌に対しては、患者さんの年齢や全身状態、症状、癌の悪性度などによって、経過観察、外科的治療、放射線治療、ときにホルモン治療が行われます。進行癌、殊に、転移を有する癌の場合は、局所療法である外科的治療や放射線治療の適応ではありませんので、全身療法であるホルモン療法の適応となります。
手術支援ロボット、ダビンチの値段は1台約2億5000万円、維持費も年間約2500万円と高額。1症例あたりの消耗品はおよそ40万円。現在日本では、患者さんの個人負担は100万円から150万円ほどかかるようです。経済危機にあるギリシャから、これほど数多くの泌尿器科医がロボット手術の研修にくることは、とても不思議な気がしますが、ギリシャの格差社会の富裕層の数は少なくはありません。研修に来ているギリシャ人医師によると、病院で手術を受けるためには、「under the table」、つまり、賄賂が必要なのだそうです。流石、賄賂社会です。そもそも、ギリシャ人が研修に来ることで、我々泌尿器科としてのメリットはほとんどありません。我々自身、トレーニングしなければならないのに、ギリシャ人に症例を取られたりすることには納得がいかないのですが、我々の仲間の中には、ギリシャへ手術に行ったりしている人間もいて、なぜギリシャ人を受け入れるのかということの裏にはいろいろな事情があるようです。
EUに加盟しているスウェーデンですが、ユーロには非参加。よって、今回のギリシャの経済危機において、救済に加わる義務はないのですが、最近、Financial Times の「2011年の欧州で最も優れた財務大臣」に選ばれた、スウェーデンのちょんまげピアス男、Anders Borgは積極的に救済に参加する立場を取っています。
日本とは違うスウェーデンの医療現場の文化といえども、私の診療のスタイルは日本に近い。辛い状況に置かれた患者さんや家族に対しては、どうしてもドライにはなれないからである。でも、先日こんなことがあった。膀胱癌の患者さんだけを集めた外来を膀胱癌チーム4人で担当。予約制ではなく到着順に診察するため、患者さんは主治医でない医師の診察を受ける確率が高い。外来の看護師さんが私のところにきて、「先生と会った患者さん夫婦が、『Äntligen fick vi en läkare som vi kan prata.(ついにちゃんと話を聞いてくれる先生に会った。)』と話しながら帰っていったわよ。素敵な賛辞だと思わない?」日本流はスウェーデン人にも評判は良いと感じている。
膀胱癌の再発を告知した、入院中の男性。イラク人の彼は片言のスウェーデン語を話す。両側腎瘻と新膀胱へのカテーテル、併せて3本のカテーテルが挿入されている。込み入った話は通訳同席あるいは、家族が通訳となって話すため、彼の感情を理解することは難しい。腎機能の回復を待って、抗癌剤の投与ができればという状況。専修医の手術指導のため手術室へ向かうとき、彼が病棟の廊下を懸命に歩いているのに会った。「Hej!」と言って通り過ぎた。約2時間後、手術が終わって病棟へ戻ると、未だに廊下を彼が往復している。「Vad duktig du är! Jättebra!(良く頑張ってるね。とっても良いことよ。)」と声を掛けると、「Jag vill bli stark.(強くならなくっちゃ。)」と言ってはにかんでいた。父が末期癌を宣告されたとき、毎日、病院の屋上で何キロも歩くトレーニングをしていたことを思い出した。父に起きた奇跡が、彼にも起こるといいなと思った。父は告知をされて、全てを知っていたし、知っていたからこそ頑張ったのだと思う。
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