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度を過ぎたいたずらが引き起こした悲劇

イギリスのウィリアム王子妃キャサリンのご懐妊のニュースが流れてまだ日が浅いが、体調不良のために入院した病院で、とんでもない事件が起こった。

12月5日の朝5時半ごろ、 キャサリン妃の入院するKing Edward VII 病院に、エリザベス女王とチャールズ皇太子になりすました、オーストラリアのラジオ局2Day FMのDJであるMel Greig とMichael Christianからの電話が入る。

エリザベス女王を語ったMelは、電話を受けた看護師にキャサリンにつなぐように頼み、その看護師は、キャサリンの担当看護師へ電話を回した。そこで、Melはキャサリン妃の容態を訊ね、担当看護師は病状説明をしてしまう。

‘She’s sleeping at the moment and she has had an uneventful night and sleep is good for her. She’s been given some fluids to rehydrate her because she was quite dehydrated when she came in but she’s stable at the moment.’

‘She hasn’t had any retching with me since I’ve been on duty and she has been sleeping on and off.’

この事件に対し、患者、そしてよりにもよって、キャサリン妃の情報を漏らしてしまった病院は謝罪をし、キャサリン妃は無事6日に退院となった。

 

しかし、事件はこれで終わった訳ではなかった。

7日朝、いたずら電話を受け、担当看護師へ回した看護師Jacintha Saldanhaが自殺しているのが発見された。46歳の優秀なベテラン看護師で、2児の母であったそうだ。

ウィリアム王子夫妻は哀悼の意を表し、くだんのDJは謹慎処分となった。非常に喜ばしいはずのキャサリン妃のご懐妊が、このような悲劇で始まってしまったこと、そして、医療従事者としては大きな間違いを犯してしまった看護師が、死を選んでしまったこと、、、。まさに、悲劇としかいいようがない。

医療従事者には、守秘義務がある。スウェーデンでも勿論常識であり、患者さんが望めば、家族にも秘密にしなければならない。そんな場合は、カルテに、「sekretess」と記載されていて、それが明らかになるようになっている。カルテは電子カルテであるが、名前をカルテに記載したくない場合は、パーソナルナンバーだけ記載される。殺人未遂の被害者が入院したことがあったが、そんなときも名前を非表示にする。医療従事者が職務上関わる患者さん以外のカルテを閲覧することは禁じられており、必要があれば、誰が閲覧したのか調べることも可能である。私自身、妊娠中に何度か低所恐怖症のような症状に陥ったため、精神科を受診したが、その際に、自分のカルテを無関係に閲覧した人を検出できるようにしてもらった。守秘義務と言ってしまえばどの国でも同じだが、スウェーデンと日本とを比べると随分異なる点が多いかもしれない。守秘義務の立場から言えば、癌の告知を本人にしないという日本の古い慣習は、明らかに間違いである。スウェーデンでは、癌患者さんが、家族に自分が癌であることを言ってくれるなと言う場合もある。守秘義務については、かなり神経質であるため、ブログの中でときどき患者さんのことを話題にすることがあるが、そのときは、患者さんが特定できないように気を使っている。

ベテランの看護師が、なぜ常識からかけ離れたことをしてしまったのか。電話を取り次ぎ自殺してしまった看護師もそうだが、電話で病状を伝えた担当看護師も脇が甘すぎた。いたずら電話により、人が一人亡くなった、、。医療のプロフェッショナルとしては、やってはいけないミスだが、その対価が死とは、あまりに重すぎる。何ともいえない悲劇である。

各報道はこちらから。

山中先生のノーベル賞記念講演

今日、15時より、カロリンスカ研究所にて、ノーベル医学・生理学賞の記念講演がありました。

残念ながら、私は家で子守りをしなければならず、講演には行けませんでしたが、Live webcastでオンタイムで拝聴することができました。

映像からも、相当緊張なさっている様子が伝わってきましたが、ゆっくりとわかりやすく、いくつものジョークを交え、笑いを誘っていました。ノーベル賞発表の前日に、カロリンスカの学長と同席する機会があって、別れ際にウインクをされた気がしたこと、それがノーベル賞を意味するかのようなジョークもありましたが、投票は発表当日の朝にされるため、学長が前日に知っているはずはないのですが、何とも可愛らしい山中先生のジョークで始まりました。そして、良く知られているジョーク、「外科医として才能がないと悟って研究者に転向した」という逸話。

講演は3部構成で、最初は、大阪市立大学での大学院生時代と、サンフランシスコでのポスドク時代のお話。大阪では、血圧のコントロールについての研究だったため、ポスドク先も、心臓血管関係の研究所だったとか。しかし、そこで彼が作ったノックアウトマウスのお腹が大きくなり、テクニシャンから、「雄も含めて全てのマウスが妊娠した!」という報告を受けて調べたところ、肝臓癌を発症していたという発見から、心臓血管系の研究所であったのにもかかわらず、肝臓癌の研究をすることになったこと、そしてその遺伝子に関連する別の遺伝子が、肝臓癌の癌抑制因子であったことをつきとめます。この頃から、ES細胞に興味を持ったようですが、事情で日本へ帰国。その後PADに罹患したという話になります。PADとは山中先生の造語で、「Post America Depression」のことだそう。かなり落ち込んで、研究者をやめようとさえ思ったそうです。ところが、それまではES細胞といえばマウスに限られていましたが、人間のES細胞が作成され、その論文を読んで、再びサイエンスへの情熱が蘇ったと。そして、奈良先端研にPIのポジションを得たこともあって、PADから立ち直ったのだそうです。目指すプロジェクトは、胚から幹細胞を作るES細胞ではなくて、体細胞から幹細胞を作ることで、それに必要な因子を発見することでした。胚を用いると、どうしても倫理面の問題を避けて通ることは出来ないため、体細胞を用いたいという説明で、ジョージ・ブッシュとローマ法王が会談している写真が出て、ここでも笑いが聞こえました。幹細胞に関するスライドの中で、「不老不死、immortality」のところが、「immorality」となっていて、この間違いに触れたときは、聴衆は爆笑していました。

iPS細胞が、2006年の発見から、6年という短期間で受賞したのは、近い将来、再生医療として臨床応用が可能であるためで、どのような治療法に結びつくのかということでまとめたあと、謝辞がありました。謝辞の最後は、家族に対してでした。今回同行しているのは、夫人と医学生である二人の娘、そして、夫人の母上ということでした。山中先生ご自身の母上は同行せず、それは、「あなたの英語はひどいから行かない。」と理由からだと笑わせましたが、既に亡くなっている二人の父上、つまり、山中先生自身と、山中夫人の父上に対する謝辞もあり、お人柄が伺えるようでした。

講演の始まる2時間前には、すでに講堂の前には、講演を聴きたい人で100メートル以上の列が出来ていたそうで、今年の賞のインパクトの大きさを感じます。アルフレッド・ノーベルの没日であるNobeldagenは12月10日。もうすぐです。山中先生の前回2010年の渡瑞の際には、アイスランドの火山灰でスウェーデンに足止めをくった山中先生ですが、今回はこれ以上の大雪にならないことを願うばかりです。

 

将来は研究者か!?

「わたし」は山中先生の講演に釘付け!

男性の生殖機能にも賞味期限あり

最近でこそ、40代の出産もあまり珍しいものではなくなりました。女性の社会進出に伴い、初産年齢は年々上がっています。それとともに、初期は「試験管ベビー」と呼ばれ、IVFで妊娠したことは秘め事とされる傾向がありましたが、現在ではIVFもごく一般的となり、IVFにより母親となった女性が恥じる必要がなくなったことは、その一人としても喜ばしいことだと感じています。

しかしながら、女性には、生殖機能を失う明らかな「賞味期限」があって、その点で、男性と比較すると非常に辛い思いをすることも多く、自然の摂理とはいいながら、不公平だと天を恨む女性も少なくないはずです。子供に恵まれずに離婚して、男性は若い女性と再婚し子供をもうける、、、。元夫の母親に、「もう少し若い人と結婚すればすぐに子供ができるわよ。」と言われて結局離婚することになった私も、当時、悔しい思いをしたものでした。その言葉が、しかも女性が発した言葉であったことで、深く傷つきました。女性の持つ卵子は、既に生まれたときに全て存在しており、思春期に排卵が始まると、その数は減る一方です。また、卵子の質が低下するため、受精や着床、そして妊娠にいたる確率が小さくなります。また、21番染色体のトリソミーであるダウン症候群の危険性が上がることは、良く知られていることです。しかしながら、子供が親から受け継ぐDNA異常は、そのほとんどが父親からのものであるという論文が出ました。

 

 

8月23日付のNatureに発表され、インパクトの大きさから、表紙に取り上げられました。

 

研究は、アイスランドの deCODE Geneticsの Kari Stefanssonらによるもの。

このグループは、24832組の父ー母ー子供、85289人のアイスランド人から採取したDNAについて、約2500のマイクロサテライトについて検討し、これらが高頻度で変異しているということを明らかにしています。今回の論文では、78組の父ー母ー子供、合計219人について、DNAの塩基配列の解析をしました。子供がのちに罹患する疾患、たとえば、自閉症や統合失調症といった疾患にかかるリスクは、父親の年齢が上がるとともに上昇するというデータです。20歳の父親はおよそ25の変異があるのに対し、40歳の父親は65であり、1年父親になるのが遅くなるとともに、2つ多く変異が子供へ受け継がれるという計算になります。親から子供へ受け継がれる変異の実に97%が父親由来なのだそうです。精母細胞は活発に分裂し、常に新しい精子が作られますが、高齢化するとともに精子のDNAの変異頻度が高くなります。そして、今回の調査では、子供が自閉症や統合失調症に罹患する頻度が、父親の年齢が高くなるとともに高くなることがわかりました。

Natureに掲載されたオリジナルのグラフをわかりやすく書き直したものが、The New York Timesにありましたので、お借りしました。

 

The Wall Street Journalでは、父親、母親双方のDNAの変異の頻度の年齢変化をグラフにしているので、こちらも拝借。女性の年齢と、子供のDNA変異の頻度は無関係という結果。

 

今回のデータでは、父親のDNAの変異の頻度と、子供の精神・神経疾患の頻度が相関することより、父親の遺伝子が子供の脳の発達に関与している可能性が示唆されます。これまでにも、父親の年齢と精神・神経疾患の関連についての報告、また、その他の疾患、たとえば、癌(乳癌など)についても関連があるという報告もみられます。DNAの変異が常に子供の異常に関連する訳ではありませんが、これらの報告より、女性が若い時点の卵子を凍結するのと同様、男性も精子を凍結すると良いのではないか、というような議論も出ています。

私は所謂、フェミニストではありませんが、これまで、男女差別の多い社会でもがいてきたこともあって、男性の生殖機能にも賞味期限があるということには、多少の安堵の念を覚えてしまうことは否めません。生殖機能の盛りを過ぎた女性は、「不妊、挙児断念」となれば、その結果子供にDNAの異常を伝えることはありませんが、男性については高齢でも、「挙児」に至る可能性が少なくないため、子供に異常を伝えてしまうということになります。

今回の論文は、世の中の男性諸氏に、男性の生殖機能の賞味期限を考えるきっかけを与えたに違いありません。

安全で合法な中絶は女性の権利 「Safe and legal abortion is a woman’s human right」

2008年にはおよそ8600万人の女性が望まぬ妊娠をしているそうですが、そのうち妊娠を中絶しているのは半数強の4600万人。WHOのデータによれば、2160万人の女性が安全ではない中絶手術を受けています。そして、安全ではない中絶により命を落とす女性はおよそ4万7千人。望む望まぬに関わらず、妊娠に伴うリスクを背負うのは常に女性。この不平等は、女性が生まれながらにして受け入れなければならないものです。それでは、少なくとも、望まない妊娠継続を中止する処置を、安全に合法的に受ける権利が、全ての女性に与えられてしかるべき。しかし、今なお、中絶が違法である、または、制限されている国が存在します。

 

赤く表示されている国は、「いかなる理由があっても」中絶は違法、あるいは、「母体の救命に必要と考えられる」以外の中絶は違法としている国々です。南米やアフリカ、中東やアジアの一部に多くみられます。ヨーロッパでは、アイルランドとマルタ。チリなどでは、強姦による妊娠の中絶や、母体の救命に必要な中絶であっても違法であり、法を犯せば収監されます。

最近、アイルランドで、「胎児の生存存続が望めない妊娠の中絶が、母体の救命に必要であったにも関わらず行われなかったことにより、女性が命を落とす。」という悲劇的な事件がありました。アイルランドは敬虔なカソリック教徒で知られる国。

死亡したのは、アイルランドに住む31歳のインド人歯科医。

10月21日に背部痛で病院を受診。その際、妊娠17週で、既に流産が進行しており、中絶手術が必要でした。

‘Sorry, can’t help you. It’s a Catholic country. Can’t help you. It’s a Catholic team.’

胎児の心拍が確認されている限り、「カソリックの国では中絶は許されない」という理由で、医師は中絶手術を拒絶しました。彼女はヒンズー教徒であるにもかかわず。その後、胎児が死亡したため掻爬術を行いましたが、女性は10月28日に、大腸菌とESBLによる敗血症のため死亡。

“They knew they couldn’t help the baby. Why did they not look at the bigger life?”

と、彼女の夫は語り、

“In an attempt to save a 4-month-old fetus they killed my 30-year-old daughter. How is that fair, you tell me?”

と、彼女の母親は憤りました。

 

アイルランドでは、「母体の救命のための中絶」は過去の判例で認められていますが、それは法制化されていないこと、また、医師が「母体の救命に中絶が必要かどうか」を判断することを敬遠するため、事実上、救命のために必要であっても中絶がなされないことが多いようです。実際、国民のわずか54%が「母体の救命のための中絶の法制化」に賛成だということは驚きです。今回の悲劇は、犠牲者がインド人だということもあり、アイルランド国内だけでなくインドでも、アイルランドの中絶に関する法律に批判の声が高まっています。

 

以下、写真はhttp://www.guardian.co.uk/から拝借。

 

 

母体の救命のための中絶は当然行われるべきで、それは、「女性の権利」以前のものです。それ以外の中絶に関しては、中絶の是非は別として、妊娠した女性自身の意思が尊重されるべきだと、私は考えています。よって、アメリカなどでの「反中絶」運動は、全くもって理解できません。進化論を受け入れられないキリスト教信者に対しても同じように感じます。

妊娠・出産は女性だけの生理であり、それに伴うリスクを負わなければならない性差による不平等は仕方がないとしても、中絶の意思決定と、安全で合法な中絶手術を受けられる権利は、全ての女性に保障されるべきだと思います。

 

 

喜びの涙 「tårar av glädje」

喜びの涙に遭遇することは、あまりあることではありません。私自身も、喜びの涙を流したことは数えるほど。

最近、心を動かされた喜びの涙は、ある患者さんの涙でした。

 

彼は数年前に、膀胱癌のため膀胱全摘を受け、年齢も50代と若かったため、今までどおり排尿ができる新膀胱を造設しました。ところが、新膀胱に関連するありとあらゆる合併症に苦しむことになります。尿失禁、完全に排尿できないため自己導尿、そして、繰り返す腎盂腎炎。タクシーの運転手さんという職業柄、適時に排尿できませんし、失禁も大きな障害となります。手術をした担当医に、再手術を請ったようですが拒否され、自殺まで考えたそうです。彼の合併症を考えると、残念ながら、新膀胱を回腸導管に変更し、ストーマにする手術をするのがベストと考えられますが、担当医は既に退職しているため、新しい執刀医が必要です。この手術は、癌の手術ではなく、機能を改善する手術ですので、以前も書いたように、癌の手術とは全く異なる意味で難しい手術です。しかも、前の手術から比較的短期での再手術。

 

最近、大きな手術の術者があまりいないこともあって、私が執刀医を引き受けることになりました。術前のCTで、右尿管にかなり長い狭窄があり、さらに、通常、左尿管はS状結腸の背側を通して右側へ移動し、右尿管と吻合して新膀胱へつなぐのですが、どういう訳か反対に手術がなされていました。右尿管狭窄部を切除することを考えると、左右尿管を右側へ移しなおす必要があり、術後の癒着なども予想され、難しい手術になることを覚悟しなければなりませんでした。

実際に、手術始めから、腹壁ヘルニアがあったり、癒着があったりして、難易度の高い手術でした。当初は、新膀胱の一部を導管として利用して、新たに腸管を採取しないことを考えていましたが、結局、長さも足りず、左右尿管もWalles吻合ではなく、Nesbit吻合にしなければならなかったため、小腸小腸吻合をせざるを得なくなりました。こういう臨機応変の手術では、執刀医がどこまで時間と手間をかけるかという思い入れによって、術式が変わってくることがままあります。時間を短縮しようとして、多少無理を押して術式を簡単にすると、殊に機能に関しては望むようにならないことは、外科医であれば経験はあるはず。手術のその場だけを考えれば、手術時間、出血量が少ないほど腕が良い外科医であると、数字の上では言えます。しかし、長期的な生命予後、機能を考えて、数字、殊に時間を多少犠牲にするという「思い入れ」は、外科医にとって非常に大切だと私は考えています。結局、手術時間は6時間ほどになりましたが、非常に満足のゆく手術ができました。

翌朝、手術室の回復室に回診したとき、手術の経過を説明しましたが、患者さんが突然涙を流し始めました。

「本当にこれまで辛かった。再手術を拒否されて、何回も死のうと思いました。」

「難しい手術なので、長期的に機能がどうなるかということは、現時点では保障できないけれど、うまくいきました。泣かないで。」

と患者さんの涙をぬぐってあげると、

「ありがとう。これは、喜びの涙。あなたに出会えて良かった。」

と嗚咽し、私の手を握ってきました。

炎症があり狭窄した尿管を、出来るだけ切除はしたものの、長期的に考えると、再狭窄という事態もありえます。したがって、手放しで喜んではいられない心境ですが、自殺を考えるまで追い詰められた患者さんのことを考えると、ここはともかく盛り上げて、戦う意欲を刺激するようにしなければなりません。

医師の仕事は私にとって天職だと思っていますが、良かれと思ってした治療が成功しないこともある訳で、喜びも苦しみも糾える縄の如く、その双方を背負ってゆかなければならない宿命なのです。

喜びの涙 「tårar av glädje」。それはとても美しく、それゆえ、切なくなります。

HIVがスウェーデンに上陸したとき

記事にしたいことは沢山あるのですが、仕事と双子の世話で毎日一杯一杯です。妊娠したことは日本の家族には内緒にしており、帝王切開が無事に済んでから電話連絡して驚かせましたし、出産後も誰にも頼らずにきましたので、それなりに大変です。診療所などでも、初産だし、双子だし、未熟児でもあるということで、第三者の手を借りるように勧められましたが、親の手を借りないというのが私の希望でもあり、父親の親も遠方在住である上、脳梗塞の後遺症に悩んでいるということもあって、借りる手がないのも現状でした。

昨日、SVT(スウェーデン国営放送)で放映した、HIV感染症、AIDSに関する番組はとても興味深いものでした。

Smittad – när hiv kom till Sverige(感染、HIVがスウェーデンにやってきたとき)

というタイトル。

AIDSは後天性免疫不全症候群の略であり、HIV感染により免疫不全を起こした場合の病名です。最初の症例報告は同性愛の男性に発症したもので、1981年。1983年にウイルスがフランス、パスツール研究所で発見され、そのフランスの研究者たちは2008年にノーベル医学・生理学賞を受賞しています。日本では1985年が最初。私が医学生だった頃、丁度、「カポジ肉腫」などが教科書に載るようになりました。日本では、主に、同性愛者、そして血液製剤を必要とする血液疾患患者、母子感染などが感染経路。もともとの起源としては、チンパンジーのウイルスが突然変異して人間に感染したという説が有力のようです。

スウェーデンでも80年代に最初の症例報告がありましたが、やはり同性愛者に多く、針を共有する薬物依存者、そして、感染者と性的接触をした人などに広まってゆきます。1990年代中ごろに、有効な抗ウイルス剤が開発され、その多剤併用によりAIDSによる死亡率は激減しますが、それまでは致死的な病でした。私が最初にAIDS患者を診察したのは、研修医の頃。当時、耳鼻科医として働いていた私は、小児科病棟から往診を依頼されました。血友病の小学校低学年の男の子で、輸血によりHIV感染を来しました。鼻出血が止まらないので何とかしてほしいという依頼でした。往診すると、隔離された個室で、鼻から大量に出血している小さな男の子がベッドに横たわっていました。個室の前室で、担当医が、「気を付けてください。死んでもそれは仕方がありません。」と。研修医の私には、あまりに重過ぎる言葉でしたが、80年代の当時は、AIDS発症はすなわち、死を意味したのですから、致し方なかったのかもしれません。帽子に目を防御できるマスクを2重にし、ガウンも手袋も2重という重装備で治療にのぞみ、持参したボスミンや鼻用ガーゼを使って何とか止血に成功しました。しかし、あのときは恐ろしかったし、あまりのことに涙が出たのを覚えています。

現在、診療をしていると、ときどきHIV陽性の患者さんを診察したり、ときには手術をしたりすることがあります。現在では、滅多なことでは感染しないことがわかっていますので、動揺しませんが、やはり、手術になると緊張します。20年以上医者として働いていると、針刺し事故などは何回も経験済み。診察する全ての患者さんのほとんどはHIVテストをしていませんから、針刺し事故のあとは落ち込みました。スウェーデンでは1回、前立腺生検をする際に、通常はエコーガイドでの穿刺のみ行うのですが、そのときは、直腸診上、硬結があったため、そこから生検を試みたため、自分の指を刺してしまいました。すぐに事故のレポートを提出して何回か検査し、幸い、何の感染も起こしませんでしたが、、、。日本では、手術のために入院する患者さんには、HIVテストをする施設が多いですが、スウェーデンでは行いません。医療従事者の安全のためにも、各種感染症は検査するべきではないかと思いますが、やはりコストの問題なのでしょうか?医療従事者が入職する際にも、HIV検査はやっていなかったように記憶しています。一方、MRSAなどは検査しました。私自身は、B型肝炎のワクチンを打っているので、その抗体が陽性である以外は陰性。度重なる不妊治療のたびに、HIVを含めた感染症の検査をしています。感染者は、医療機関を受診する際などは申告することが義務付けられていますが、たとえば、美容院などではどうなのでしょう?しかし、未だに偏見が多くあるのも事実です。スウェーデンでさえも、HIV陽性患者さんの半分は秘密にしているそうです。

プログラムでは、スウェーデンのAIDS治療に携わってきた医師や、患者さんなどが登場します。まだ治療法も無かった頃は、政治家たちの中では、「同性同士の性的接触の禁止」などを法制化しようという動きもあったことが紹介されています。薬物濫用の取り締まりはできても、同性愛の取り締まりは難しいという議論もありました。AIDSで亡くなった患者さんのご遺体は、黒いビニール袋に入れられ、消毒され、まるでごみのように扱われていたそうです。80年代のスウェーデンや医療現場を知ることもでき、非常に興味深い番組でした。

AIDS関連で、

「Torka aldrig tårar utan handskar」(手袋をせずに涙をぬぐわないで)

という映画があります。SVT playで途中まで見ましたが、これも非常に興味深いので、そのうち記事にしたいと思います。題名から、「涙でHIV感染が起こると信じられていた」ということが想像され、何とも心が痛みました。

 

多剤併用で良い予後が期待されるHIV感染ですが、細菌感染症と抗生剤と同じように、耐性HIVの発現なども問題になるのかもしれません。現在のところ、抗ウイルス薬で完治する訳ではなく、生涯、服用が必要なのです。

ストックホルムより速報!山中教授ノーベル医学・生理学賞受賞!!!!

「受賞は確実、それがいつなのか」、という山中先生へのノーベル賞。思ったより早くやってきました!!!

おめでとうございます!!!!とても嬉しい!!!!今年はあまりに嬉しすぎる年になりました!!!

 

国際禁煙デー World No Tobacco Day (WNTD)に寄せて

本日、5月31日は1987年にWHOが定めた、国際禁煙デーです。

スウェーデンでは1994年7月に学校校庭での禁煙を定めたのを皮切りに、2005年6月には、レストラン、パブなどが全面禁煙となりました。生まれてこれまで一度たりとも吸ったことのない私にとっては、僅かなタバコの臭いも気になります。スウェーデンでの外食は決して日本のように美味しくはありませんが、タバコ臭のしない環境は、何と素敵なのでしょう。日本へ帰国して、レストランなどでタバコの臭いがすると、残念ながら、「なんて野蛮国な国なんだ。」と感じてしまいます。そんな日本を尻目に、スウェーデンでは最近、レストランの屋外席や、バルコニー、電車やバスの待合場所などでの禁煙を法制化する動きがあります(記事12)。

2011年のG7における喫煙率は、フランスの26.2%に続き、日本は23.9%で2位。続いて、イタリア(23.1%)、イギリス(21.5%)、ドイツ(21.9%)、カナダ(16.2%)、そして最下位はアメリカの16.1%。しかし、日本の23.9%という喫煙率は、日本人女性の低い喫煙率により引き下げられた値であり、2008年のデータで性別で比較すると、2位のフランスの30.6%に大差を付けて、日本人男性は39.5%とG7ではトップです。男性における国際比較では、ギリシャ(46.3%)、韓国(45.3%)、トルコ(43.8%)、日本(39.5%)、エストニア(38.6%)の順で、日本は堂々の世界第4位。対する日本人女性は、この数年常に喫煙率下位3位に入っており、2010年では12.1%。

OECDのデータによると、日本の最初のデータは1965年で、男性の喫煙率は何と82.3%。これは、OECDのデータでは他に例のない高い数字です。日本たばこ産業株式会社(JT)の前身は、日本専売公社であり、大蔵省から独立したもの。現内閣総理大臣からして、「18歳」から喫煙を始めたヘビースモーカーであり、日本男性の高い喫煙率は、JTの影響力を排除できず、また、禁煙する強い意思のない政治家の無能によるものであり、それが日本の文化でもあるのか。OECDのデータで興味をひいたのは、一般的に男性の喫煙率が女性のそれを上回る中、北欧諸国では男女の喫煙率が拮抗しており、2009年のデータでは、スウェーデンの男性の喫煙率は13.5%、対する女性は15%と、女性の喫煙率が男性のそれを上回る唯一の国であったということ。流石、男勝りのスウェーデン人女性。

タバコの起源は、新大陸(=古代アメリカ大陸)にあると考えられており、16世紀はじめには、すでに数種のタバコ属の植物が栽培されていたようです。ヨーロッパへは、新大陸を発見したコロンブスにより伝えられたとか。日本へも16世紀に南蛮貿易により伝えられました。もし、タバコの起源がごく最近であれば、「百害あって一利なし」のタバコは、麻薬や覚醒剤と同様の扱いになり、喫煙自体、法で禁じられたに違いありません。喫煙が肺癌の原因であることは良く知られていますが、泌尿器科領域でも、膀胱癌はヘビースモーカーに多い病気です。膀胱癌の仲間である、腎盂癌や尿管癌も同様であること、喫煙者の手術は高リスクであることなどから、患者さんには強く禁煙を勧めますが、なかなか喫煙をやめられない人も多いのが現実です。医師仲間をみると、日本の医師には喫煙者が多かったですが、スウェーデンでは非常に少ないという印象です。泌尿器科では知る限り、一人だけ。その代わり、snusという噛みタバコのようなものを使っている医師は複数います(大手メーカーSwedish MatchのHP)。

snusには、小さな袋に入っているものと、粉末を丸めて使うものとがあります。

 

いずれも、上唇と歯肉の間に挿入するのですが、殊に粉末タイプのものは、見るのも汚らしい。私にとっては臭いも吐き気をもよおすほど。

 

癌だけではなく、閉塞性肺疾患、虚血性心疾患など、喫煙の弊害をあげたらきりがありません。喫煙に関連した疾病により、どれだけ医療費が押し上げられていることか。私にとって喫煙者は、知能の低い野蛮人としか感じられません(汚い言葉で失礼します!)。殊に、喫煙の弊害を知っている医師の喫煙者はなおさらです。以前の上司であった教授がヘビースモーカーで、外科医、研究者としては尊敬していましたが、喫煙に関しては論外。禁煙のはずの院内で、教授室や医局は「治外法権」とのたまわっておられ、医局員は私も含めたんまりと副煙流に暴露されていました。スウェーデンでは、病院内の喫煙は勿論のこと、建物の出入り口での喫煙も禁じられています。それでも、高カロリー輸液の点滴袋をさげ、車椅子に乗った患者さんが、出入り口で喫煙しているのを良くみかけます。

少し前には、病院の出入り口にベッドに寝たままの患者さんが降りてきて、タバコを吸っていたのを目撃し、驚愕したのでiPhoneで激写。そこまでして、タバコが吸いたいか、、、。

少し脱線しますが、日本で現在、生活保護の患者さんにジェネリック薬品を優先させるとか、医療費の一部自己負担をさせるとかという論議がなされていますが、私はどちらも賛成。この話題に関してはまた取り上げたいと思っていますが、スウェーデンでは、年間2200クローネを上限として外来処方薬の自己負担が決められていますが、これを超えた場合、医学的理由がなければ薬価の低いジェネリックが優先されます。ジェネリックの処方を拒否した場合、上限に関わらず自己負担となります。生活保護者に関しても、たとえ、戦争難民であっても、減額された外来受診料や処方薬に対する自己負担が発生します。このようなスウェーデンの状況を鑑みると、日本の生保患者に対する医療費免除は、直ちにやめるべきで、これにより、通常より高い生保患者の受診率は抑制され、生活保護費の半分を占める医療費も抑制されることでしょう。税金を納めている低所得者よりも、生活保護者の方が高額の医療を受けることができたり、使途自由な生活保護費で何万円ものタバコを購入し病気になる生保患者の存在は、矛盾以外の何者でもありません。

国際禁煙デーの存在はあまり知られておらず、メディアも報道することが少ないようですが、スウェーデンでの議論が進んで、是非、レストランの屋外席やバルコニーでの喫煙が禁じられるようになってほしいものです。喫煙者が病気になるのは自己責任ですが、非喫煙者に副煙流の吸入を強いることは、言ってみれば殺人行為に近いといえるのですから。愛煙家の方、ごめんなさい。

医者の不養生(4)

スウェーデンでは、スウェーデン語のできない患者さんが入院してくることは珍しいことではありません。患者さんが英語を話す場合は問題はないのですが、その他の言語の場合は大変。看護師さんの出身も様々なので、ときには、看護師さんが、ペルシャ語、アラビア語、ロシア語などの通訳ができることがありますが、通常は通訳に病院へ来てもらいます。

アルフレッド・ノーベルが息を引き取ったのは、イタリア、サンレモの病院で、ノーベルはイタリア語が出来なかったといいます。死に至るほどの重い病の床で、意思疎通が叶わなかったことは、どんなにか辛いことだったでしょうか。私自身、受け持ちになる患者さんで、殊に大きな手術の術前術後などには、言語が出来ないと、不安も大きいことと想像することがときどきあります。

今回入院中も、殊に入院当初は非常に症状が重かったし、真夜中でも投薬など治療や、血圧や酸素飽和度のチェックのために看護師さんがベッドサイドに来ましたが、こちらは意識も朦朧としている中でのやり取りになります。移住以来、日本語を使う機会が殆どない生活で、寝言さえもスウェーデン語になりかけている状況だったので、スウェーデン語でのやり取りには心配がなかったのが、不幸中の幸いでした。

スウェーデンで日本人の患者さんにお目に掛かることはあまりないのですが、スウェーデン語に熟練されている方でさえも、日常使わない医学分野の話になると、やはり日本語が良いとおっしゃる方が多いです。随分前に、ポスドクとして働いていたとき、医学研究分野で日本のテレビが同僚にインタビューに来たことがありました。スウェーデン在住の日本人通訳が同行していたのですが、医学用語には不慣れなようで、同僚の不信を買い、急遽、代理で通訳をすることになったのですが、やはり、専門用語に通じていないと、全く話が理解できないということは、ままあることです。私も、自分の専門分野を離れると(英語に似た単語なら理解しやすいのですが)、わからない単語もまだまだ存在し、他科の医師と話をするときには十分に気を使う必要があります。

この次には、スウェーデンの病院食について、ご紹介しようと思います。

 

 

豊胸用シリコンで発癌?

日本で働いていた頃、健康診断のアルバイトを定期的にやっていました。診断の中には、聴診や触診なども含まれるのですが、その中で、豊胸手術をした女性も沢山診察しました。私自身、どちらかというと貧乳に近いのですが(笑)、年を取ると確実に重力に逆らえなくなる巨乳より、貧乳の方が醜くないと信じていること、健康診断で見る「シリコン胸」には違和感しか感じないことから、乳癌術後の乳房形成術以外の豊胸術には存在価値を認めていません。「シリコン胸」は、露出がほどほどの洋服を着用した場合には、確かに美しいこともあるかもしれませんが、露出すれば、「シリコン胸」だということは素人目にもわかるものです。

 

良い例が、Victoria Beckham。前後の写真を比較しなくても、術後の膨らみは明らかに不自然です。もっと露出を抑えればわからないのに、、、。

 

健康診断では、臥位にして診察をすることがありますが、通常の胸は重力に従って外側に流れますが、「シリコン胸」はそうではありません。美容形成外科医ではない私にも、すぐにわかってしまいます。それに、不自然なので美しくありません。

クリスマス前に、「豊胸用シリコンによる発癌」についてのニュースがフランスで流れました。

PIP(Poly Implant Prothese)というフランスの会社は、一時全世界で第3位のシェアを持っていたようですが、医療用グレードには達しない工業用シリコンを使った疑惑で調査が入り2010年に倒産しました。PIPのシリコンによる豊胸手術を、全世界で30万人、フランスでは3万人の女性が受けていますが、劣悪な素材などの原因で損傷する率が高いのだそうです。

シリコンが損傷することにより発癌するリスクが高いことを理由に挙げ、今回フランス政府は、PIPのシリコンを使っている3万人に対して、無料で除去術を行うことを発表しました。発癌性は大きな問題ですが、豊胸術を受けた女性の中にはその不自然さに後悔している人も少なくないのでは、、、。


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