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病院でもパーソナルアシスタント

日本で働いていたときは、MS(多発性硬化症)の患者さんを手術したことはなかった。スウェーデンではかなりの頻度で治療に携わる機会がある。

排尿障害があるために尿道カテーテルを入れたり、その先は、膀胱に直接カテーテルを入れたり(膀胱瘻)する。過活動性膀胱が認められる場合は、日本ではまだ認められていないボツリヌス菌(ボトックス)を排尿筋に注射する治療をして、膀胱容量確保の努力をするが、結局、膀胱が萎縮してしまって、尿路変向の手術をしなければならない人が結構いる。

MSといっても、症状の程度は様々であるが、通常自宅では最低一人、パーソナルアシスタントがついている。手も使えないような重症の場合は、食事も自分ではできないため、場合によっては2人のパーソナルアシスタントがつくこともある。

 

日本の大学病院で患者さんが入院する場合は、個室であったり、患者さんが子供の場合は、例外として付き添いが付くこともあるが、基本的には完全看護であり、完全看護とは「付き添いの必要がない」ことが建前である。

 

数多くみてきたMSの患者さんの典型例をあげてみる。患者さんの「排泄」に関しては、まず、介助が必要であることが多く、自宅ではパーソナルアシスタントが担当するが、入院の場合は、准看がやっている。私の科では、殆どの患者さんが、「手術目的」で入院してくるため、術後は、点滴やドレーンなど、普段はないものがあるため、それは仕方がないのかもしれないが、結果として、パーソナルアシスタントの仕事はかなり軽減されることになる。多くのパーソナルアシスタントは、暇をもてあまし、本を読んだり、中にはゲームに興じたり、携帯電話で話したりしているのを目撃することは、しばしばである。それでも、何かにつけて看護師を呼びつけることも多く、医療従事者にとっては、いらいらの原因になることが多い。

 

どの程度の介助が必要であるかの判断は、医師によってなされ、医師の診断書を保険庁に提出し、審査を受けなければならない。入院中は最長100日までのパーソナルアシスタントによる介助が認められているが、退院後に、パーソナルアシスタントの人数を増やすことができるような診断書を要求してくる、患者さんやパーソナルアシスタントがしばしばいる。通常、MSの場合は、急性期病院から、リハビリ病院に転出し、リハビリ期間を経て自宅へもどることが多いので、我々急性期病院の医師に、自宅へ退院するときの状況を判断することは無理である。それを説明しても、たいてい彼らの主張は、「こんな状況ではアシスタントが2人いないと無理」とか、「アシスタントにも、人間的な労働条件を主張する権利がある」というものが多い。患者さんはともかくとして、病院で殆ど遊んでいるアシスタントにそんなことを言われると、我々医療従事者は非常に怒りを覚える。手厚い社会保障制度に慣れて、感覚が麻痺しているスウェーデン人ですら怒るのだから、日本から来た私などには、理解できるはずもない。

 

スウェーデンの医療を含めた社会保障システムは、日本が見習うべき優れた点もあるが、日本の方が優れている点も多い。社会保障システムへ寄生する人間は、勿論、日本にも存在するけれど、ここ、社会保障王国スウェーデンでは、日本以上に目に付くことが多い。穏健党が政権を握ってから、社会保障を受けるためのハードルが上がり、制度に寄生しようとする人間を排除する方向性が強まったが、それでも日常的にこんな光景に遭遇する。弱者を社会が助けることは、非常に大事なことであるけれど、弱者も努力することを阻んではならない。努力できるものは、努力しなければならない。

 

スウェーデンの医療システムを熟知している訳ではない私としては、なかなか患者さんの要求に強く対応できないのであるが、経験を積み、勉強を重ねながら、理不尽な要求をうまくかわせるようにならないといけないと思っている。

「陽は必ず東から昇る」

春は臨床医学関係の総会が行われる時期です。

今回の東日本大震災を受けて、日本医学会総会をはじめ、多くの学会が、総会の中止や延期などの対応を取っています。

日本医学会総会は東京での開催でしたがWEB形式などに変更。

日本外科学会は紙上開催。

日本整形外科学会はWEB形式。

日本皮膚科学会は中止。

日本内科学会は延期。

日本産婦人科学会は延期。

日本眼科学会は5月に開催。

日本形成外科学会は開催(徳島)。

といった感じで、4月までに東京で開催されるものはWEB形式の開催か中止、つまり事実上の中止。
それ以外も延期などが多く、開催が決定されているものはそれほど多くありません。

私の所属する泌尿器科学会は、4月に名古屋で開催予定です。

どうなることかと思っていたのですが、会員宛に開催決定のメールが届きました。

そして、復興への想いを込めて、タイトルに

「陽は必ず東から昇る」という表現を付け加えたということです。

いろいろな考え方があって、学会の開催を中止したり、開催を決定したりするのだと思います。

日本の経済のためには、我々の活動を縮小すべきではないという意見ももっともです。

知識の普及・情報収集という意味では、もはや現代における学会の持つ意味は薄くなっていますが、若い先生にとっては、初めての大きな発表の舞台となることも多く、まだまだ存在意義があるのが総会です。

私も参加する予定で、チケットも取っていますが、旅行会社からは、やはりスウェーデン外務省からの通達により、「日本への渡航の意思の有無」についての問い合わせがきました。不必要な日本への渡航は自粛するようにとのことです。よって、キャンセルは問題なくできるようです。

まだ迷っていますが、わずかながらでも日本への貢献の意味でも、帰国しようかなと思い始めています。

「陽は必ず東から昇る」

胸にずしんときました。

 

以下は、学会からきたメールです。開催決定までの道のりが思いやられます。

 

平成23年4月6日
日本泌尿器科学会
会員 各位
日本泌尿器科学会
理事長 内藤 誠二
第99回日本泌尿器科学会総会
会長 郡 健二郎

謹啓
東日本大震災で被災された皆様には、心よりお見舞いを申し上げますとともに、
被災地の一日も早い復興を衷心よりお祈り申し上げます。

このような社会状況の中、関係者のご意見を伺いながら、第99回日本泌尿器科学会総会の開催について慎重に検討を重ねてまいりました。その結果、現在私たちが社会に対して果たすことのできる貢献として、会員の教育・研修および情報交換という最も重要な機能を発揮する場である総会を開催し、会員の臨床・研究の向上を図ることが大切であるとの結論に達しました。この間、東北地区の大学の先生方からは「この時期だからこそ沈みこまないで、総会を開いてほしい」「教室の同門も開業医を含め参加したいと言っている」など、逆に私たちを後押しするような温かいお言葉を賜りました。これら数々のご厚情に深く感謝いたしております。とは申しましても、このような意見は、被災地において不眠不休で医療に携わっておられる先生方や、その周辺地域で透析医療などの被災患者を受け入れられておられる先生方の総意だとは決して思ってはおりません。地震・津波・原発事故などで不安を抱える方々のお気持を出来る限り拝察しながら、学会本来の責務を遂行できるように努めていく所存でございます。

学会運営にあたりましては、被災地の先生方にどのようなことができるのか、と話合いを重ねました。以下に若干のご提案を申し上げます。しかし、被災地の惨状を知らない私たちゆえ、行き届かない点が多々あることと存じます。ご希望・ご意見をお寄せいただきたく存じます。可能な限りにおいて、対応させていただく所存でございます。
1)診療や交通などの都合により、一般演題に限って発表日の変更希望
2)発表者の変更希望
いずれも4月19日(火)までにご連絡いただければ対処させていただきます。なお東北大学 荒井陽一教授からは緊急企画として被災地の医療と現況をご講演いただく予定でございます(日時、タイトルは後日ご連絡いたします)。会員一同が一体となって絆をきずき、元気を取り戻すきっかけになればと思います。

会場内は質実な気風とし、学術あるいは文化交流に重きをおくことに徹してまいる所存です。このことは共催企業や運営会社の皆様にもご理解いただいているところでございます。懇親会の開催は、学会の目的の1つである会員相互の交流を深めるための「情報交換会」とさせていただきます。この件を決めるにあたりましても、東北地区の先生方のご意見に依るところがございました。たとえば、「学会に参加するのだから、他地域の人達と話し合う機会を作ってほしい」、「自分達だけで食事をしても意味がない」、「東北からのビデオメッセージを送ろうか」などでした。正直言ってその前向きな姿勢に驚き、敬服いたしましたが、学会の目的に立ち戻り、イベント抜きの粗餐ではございますがご用意させていただきます。23日(土)の情報交換会のはじめには、益川敏英先生から若い人達に向けてお言葉をいただく予定です。名古屋名物を片手に、泌尿器科学の未来を語り、被災地の医療を励ます場になればと願っております。4月22日(金)に予定しております会員情報交換会の会場となる名古屋城では、天守閣の見学ならびに二之丸庭園の使用費につきましても名古屋市はじめ関係機関のご高配を賜りました。被災地の方々の食料困窮したる状況を鑑みまして、教育セミナーや情報交換会での食事はできる限り無駄をなくす工夫を、共催企業や仕出し屋さんなどにご理解とご協力を得ているところでございます。

このようにして、節約できました経費は被災地への義援金の一部にささやかながらさせていただける予定でございます。なお学会期間中は日本泌尿器科学会筧総務委員長と連携しながら、義援金活動を行ってまいります。市民公開講座にご参加いただく市民の方々(延べ2000名の予定)からのご懇篤も賜る予定でございます。約2年前、私たちの教室が本総会開催を仰せつかってからこれまでに一貫した思いは、会員の皆様に満足していただく総会にすることです。当初の計画も、この1ヵ月間で大幅に変更・縮小せざるを得ない状況ではありますが、この国家的大難局を打開する一光が見える学会になればと思っております。

本総会のメインテーマに「陽は必ず東から昇る」を付け加えました。私たちは直接お手伝いができなく申し訳なく思っておりますが、一日も早い復興に向けて大きな一歩を踏み出す総会になるように努めてまいります。会員の皆様のご理解とご支援を心よりお願い申し上げます。


謹白

新記録!

泌尿器科の守備範囲は非常に広く、手術は開腹術から内視鏡まで多岐に渡るため、全ての手術を習得するというのは、非常に難しいのです。また、この10年、20年における器材や手術法の進化も、外科系診療科の中では、もしかするともっとも変化したかもしれません。

 

私の最も興味のある分野は、何といっても「癌」であり、その中でも、膀胱癌、前立腺癌に取り組んでいます。

膀胱癌は、表層癌である場合は内視鏡による切除が可能ですが、筋層へ浸潤すると、膀胱を全部摘出しなければなりません。他の臓器のように、部分切除という選択は、通常の膀胱癌においてはありません(特殊な組織型の膀胱癌では例外あり)。膀胱を全部摘出すると、その後に「尿路再建」が必要になります。

四半世紀ほど前までは、「回腸導管」といって、小腸である回腸を20cmほど用いて、尿管を回腸へ縫合し、回腸の末端を皮膚から引き出し、ストーマとするのが通常でした。つまり、患者さんは、ストーマの上に採尿袋をつけるーお腹に袋をつけるーことになった訳です。

(Kidney and Urologyより)

 

現在は、いろいろな方法で、「新膀胱」を作成し、膀胱を尿道に縫合することによって、ストーマではなく、手術前と同じように尿道から排尿させる手術が多く行われるようになってきています。その中で、我々が行っているのが、Dr Studerにより開発された、Studer法による新膀胱。

(American J Roentgenologyより)

回腸をおよそ70cm利用して、口側15cmほど残して脱管腔化します(腸間膜の対側で切開する)。切開した部分を縫い合わせて一つの袋を作ります。その袋が最も骨盤に落ち込む部分に穴を開け、尿道と縫い合わせます。切開していない部分に尿管を縫い合わせます。通常の開腹手術で、膀胱全摘をして、回腸導管なら、2時間から4時間、Studer法による新膀胱なら5時間以上は時間のかかる大きな手術です。

 

この数年で、DaVinci手術ロボットを、前立腺全摘だけでなく、膀胱全摘にも使うようになっています。手術時間は開腹手術より長くかかりますが、利点としては、出血量が少ないこと、勃起神経を温存する手術が可能であること、新膀胱の場合、精度の高い尿道の操作ができるため、尿失禁の頻度が減ることなどがあります。私が3年ほど前に、スウェーデンで初めてロボット手術を見学したのが、実はこの膀胱全摘と新膀胱作成だったのですが、数例目ということもあり、10時間近くかかったことを記憶しています。

時間がかかるため、通常は2つの手術チーム(術者+助手)を用意するのですが、今日は交替要員なしで、教授と私の二人で通しです。教授が登場するまでに、腹腔内に6つのトロッカーを挿入し、ロボットを合体させなければなりません。トロッカーの位置が手術のやりやすさを左右するので、これは大事なステップです。患者さんは重度のCOPD(スウェーデン語ではKOL、慢性閉塞性肺疾患)のため、通常はかなり頭を下げる体位、まさに逆立ち状態に近い体位にするのですが(腸管をよけるため)、それができません。

 

しかし、もの凄い速さで手術は進み、手術時間は驚きの4時間台。出血量も500ml以内。輸血は不要です。これは新記録に違いありません。前立腺全摘と異なり、助手も非常に重要なので、私もとても嬉しかったです。

数日前には、エホバの証人の患者さんに同じ手術をしましたが、勿論、無輸血。開腹手術では、まず輸血は避けられないので、内視鏡手術でないとこの手術はエホバの証人にはできません。

しかし、手術は終わった後に疲れがどっときます、、、。

モシモシ。アリガト。

私の勤務する病院では、「電話診療」が多く行われています。患者さんと医師の間だけでなく、医師同士、つまり、診療所のプライマリーケア医が診療所を受診した患者さんで、専門医に送らずに済みそうな患者さんや、専門医に紹介する前に効率よく検査を進められるような患者さんについて、専門医に相談することもできます。

 

日本では、例えば、前立腺癌の患者さんで、PSA(前立腺特異抗原)を定期的にチェックする場合が多くあります。そんなときは、患者さんは、最低1回、あるいは2回の病院受診が必要になります。これに限らず、血液検査の結果を聞きにくるだけの受診は、当たり前のことです。患者さんにとっても、医師にとっても負担となるシステムです。

 

スウェーデンで働くようになってからは、電話相談や、手紙による結果の通知などの診療形態を良く利用します。前述の、前立腺癌の患者さんの場合は、実際に受診してもらって診察をするのは、1年に1回か2回。それ以外は電話診療で済ませることがしばしばあります。患者さんは、電話診療の日時に間に合うように、近くの検査室へ血液検査をしに行けば良いだけです。定期的な診察だけでなく、急に何か問題があった場合は、診療科の看護師に電話をし、日直医から指示を受けるか、緊急でない場合は、担当医の電話診療を予約することができます。投薬が必要な場合も、オンラインの処方箋で処方をし、患者さんは街のどの薬局でも薬を手に入れることができます。診療科は、これらの遠隔診療行為について報酬を得ることになりますし、受診なしのオンライン処方では、80クローネ(約1000円)の報酬を診療科は得ることができます。この80クローネは患者さんの自己負担となります。

 

先日の電話診療で、ある80代の男性に電話をしました。電話をする時間はきちんと決まっている訳ではなく、例えば、13時から14時の間、というように、1時間の枠のどこかで電話をすることになっています。この患者さんには、電話診療時間終了間際での電話。

 

私がまだ一言も発しないのに、突然、電話の向こうから、

「モシモシ」

という声が聞こえてきました。

患者さんは私の電話を待ち構えていて、そして、私が日本人であることを知っているので、日本語で電話に出ようと計画していたのです。

今日は、これから手術になる患者さんで、全く会ったこともない人。

これからの予定や病気の話をしたあと、名前を聞かれました。

「○○子」と、ファーストネームから始めると、すぐにそれが日本人の名前であることに気付いたようでした。そして、

「アリガト」と。

スウェーデン語では、「Tack.」。「Tack så mycket.」は、「Thank you very much.」になりますが、very muchは日本語で何というのかと聞かれました。

 

このお二方も含めて、電話診療や通常診療で出会った多くのスウェーデン人が、日本の惨状について気にかけてくれます。

何だか温かい気持ちになります。

朝令暮改

日本が危機的状況におかれている現在、お上に対する愚痴や批判は控えてきました。しかし、今日は少し愚痴らせていただきたいと思います。

 

金町浄水場で22日、23日に採取された水から、基準以上の放射性ヨウ素が検出されたことを受け、東京都は、23日に乳児の水道水摂取自粛を勧告したが、24日には基準値以下となったため摂取制限を解除しました。

まさに、朝令暮改です。
天候などにも左右されやすい放射性ヨウ素値が、今後変動する可能性は十分にあるはずであるのに、わずか一回の検査結果でこのような決定を下すことは、時期尚早であるばかりでなく、人々の不安を煽ることになります。明日、上昇傾向を認めたら、また摂取制限をするのでしょうか。少なくとも、しばらくは、「乳児の水道水摂取自粛」を継続し、経過を観察するという、理解しやすい方向性を示すことが必要だと思われます。

今回の原発問題において、このような情報の「曖昧性」に対するフラストレーションは、至るところにあります。

例えば、千田先生のブログでも紹介されている、日本産婦人科学会のHP

確かに、細やかな情報には感心します。しかし、水道水に関する情報では、以下のような記述があります。

現時点では妊娠中・授乳中女性が軽度汚染水道水を連日飲んでも、母体ならびに赤ちゃん(胎児)に健康被害は起こらないと推定されます。また、授乳を持続しても乳幼児に健康被害は起こらないと推定されます。しかし、胎児・乳幼児は成人に比べ被曝の影響を受けやすいとされており、被曝は少ないほど安心です。したがって、軽度汚染水道水以外の飲み水を利用できる場合には、それらを飲用することをお勧めします。

 

科学的には、100%安全と保証することは難しいので、このような記述になってしまうことは理解できますが、このような情報の曖昧性により、人々は水を買いに走ることになるのです。安全だとしながら、安全でないとも言っていることになり、まさに、矛盾がここにあります。医師が医療現場で、治療により起こりうる合併症について説明する場面に良く似ているような気もしますが、何度読んでも消化不良感が残ります。

 

日本が現在瀕しているような危機的状況においては、優れた、そして、強力なリーダーシップが必要です。政治家には是非頑張って欲しいと思いますが、今回の東京都の朝令暮改にはいらいらしてしまいます。

日本では、放射能を検出する器械、ガイガーカウンターが売り切れだと聞いて、スウェーデンで探していますが、複数の会社で品切れです。日本からの注文が入ったからのようです。お上の情報があてにならないので、疑心暗鬼となった国民は、子供を疎開させたり、ガイガーカウンターで放射能をチェックしたりと、自己防衛策を講じようとしているようです。やはり、的確な情報公開と、はっきりとした指針を示すことが大切なのではないでしょうか。


スウェーデン外務省からの勧告

本日の原発の状況は、全体として良い方向へ向かっている印象。通電の準備もできて、従来の冷却装置が働いてくれることを祈ります。

そんな中、本日、スウェーデン外務省から、在日スウェーデン人に対する勧告が出ました。勧告の通達はこちら、スウェーデン政府のHP。

「未だ原発の状態が不安定であるため、
Strålsäkerhetsmyndigheten (SSM:Swedish Radiation Safety Authority)は、250キロメートル圏内にいる人は、(甲状腺癌)予防目的で、既に現時点からヨウ素錠剤を内服することを勧める

というものです。

原文を訳してみます。

外務省は3月16日以降、日本への渡航を控えるとともに、福島原発より80キロメートル圏内にいるスウェーデン人の避難を勧告します。この勧告は、原発の今後の見通しや放射能汚染の影響が不透明なことに基づくものであります。スウェーデン関連省庁によると、降水により福島原発より250キロメートル圏内での健康へのリスクが生じる可能性があります。風向きにより、東京も影響下に入る可能性があります。

よって、スウェーデン外務省は在日スウェーデン人に以下の勧告をします。

1. (この状況が)心配で、放射能汚染の影響を受けたくない者は、日本を出国するか、250キロメートル圏外へ避難してください。

2. 250キロメートル圏内にいる人は、既に今から、(甲状腺癌)予防目的で、ヨウ素の内服を推奨します。

3. 降水の際には、250キロメートル圏内にいる人は、屋内に留まり、窓を閉め、換気を中止してください。

また、ヨウ素錠剤を持っていない人は、東京のスウェーデン大使館で入手できます。

 

東京方面へ風向きが変化してきているため、放射能汚染のある雨が降る可能性を危惧しているようです。

日本では、東京は今のところ安全と考えられているので、このスウェーデン外務省の勧告には驚きました。スウェーデン外務省の心配が杞憂となりますように。

 

被爆による甲状腺癌予防目的のヨウ素補給などについて、興味深い記事を転載してご紹介したいと思います。ヨウ素過敏症などヨウ素投与が禁忌となる場合などもありますので、内服は医師の指導に従った方が良いと考えられます。記事にご興味のある方はこちらからどうぞ。

Continue reading スウェーデン外務省からの勧告

もう3月ですね

2月は、公私共にさまざまなことがあり、心身のコントロールが大変な時間を過ごしました。

大きな手術も沢山ありました。久し振りの骨盤内臓器全摘術は8時間にも及び、術後管理も難渋しています。気持ちが落ち込んでいるときは、忙しいくらいの方が良いのですが、体調が悪いときは、やはり忙しいときついですね。

とはいえ、気温は零度くらいまで上がってきていて、もしかすると春?という雰囲気もあります。しかし、湖はまだ凍っているし、雪も残っています。3月に大雪が降ることも珍しくありません。それでも、出勤時間に明るいのは、とても助かります。

先日会った20代女性の患者さん。虫垂炎の診断で手術をしましたが、実は虫垂癌でした。その後、再発をして、子宮全摘、両側卵巣全摘、結腸一部摘出となりました。自分で排尿することができないため泌尿器科受診となり、自己導尿をしています。膀胱鏡のため私の外来にきましたが、彼女の明るいことといったら。

沢山のコメントやメールをいただいた一つ前の記事では、不妊に悩む友人の話題を取り上げましたが、この患者さんの明るさと前向きな生き方に接すると、「不妊で悩むこと」や、「友人の思いやりに欠ける行動に傷付くこと」などが、とるに足らぬことに感じられてしまいました。彼女は、自分の子供を持つことは勿論、妊娠することもできません。それでも、こうやって前向きに生きている。彼女は、パートナーが付き添っての受診でした。大変な病歴は二人の問題となることを承知で、彼女を支えるパートナーがいる。きっと、彼女の人間的魅力のなせる業なのでしょう。自分が不幸だと思ったとき、自分よりも不幸な人が沢山いることは知っていても、自分の持っている幸せに感謝し、満足することは難しいものです。私を含めて。

しかし、このまだ20代の若さで苦難の道を歩んでいる彼女の明るい顔は、まさに電撃ショックのようで、私の中に強烈な感情が湧き上がってきました。私は何て未熟でちっぽけな人間なんだろう。彼女の生き様に対する感動と自己嫌悪とが混じり合って、涙がこぼれそうになりました。こんな出会いがあったことに、深く感謝します。

Mの学位審査

2月4日はMの学位審査でした。

Mのバックグラウンドは、生物学。約5年前にカロリンスカのPhD studentとして登録しました。カロリンスカのシステムでは、30ポイントの授業(フルタイムでおよそ半年分に当たります)を受講し、試験に合格することが義務付けられています。また、日本と異なり、学生は給料を貰いながら研究するため、給料を払える能力のある指導教官を見つけ、合意に至らなければなりません。以前は、場合によっては10年近く学位取得までにかかることがあったのですが、現在では、原則4年程度という規定となっています。中間点で、ハーフタイムという中間審査がありますが、これ以降は、指導教官は学生の社会保障費を国に支払わなければならないため、30%以上の余分な人件費がかかることとなるため、ハーフタイムは中間点というより、少し遅れて行われることが多いようです。学位審査を受ける条件は、正式には、1999年に出されたBologna declarationに準じており、論文数については規定がありません。しかし、カロリンスカでは実務上は、出版された論文があって、しかも、当該学生が筆頭筆者であるものが最低1件あること、その他に1件の論文かマニュスクリプトがあることが、暗黙上の条件となっているようです。しかし、実際には、例えば、最も権威のある雑誌、「Cell」にshared first author(筆頭著者だが、筆頭著者が複数いる場合)の論文が1編という場合でも、論文数が少ないなどの理由で学位審査委員会で揉めることもあります。

Mの場合、

Proc Natl Acad Sci USAと、EMBO Jというトップジャーナルに論文があり、Proc Natl Acad Sci USAではshared first authorとなっているため、審査の条件は十分にクリアーしています。

そして、学位審査用に彼女が書いた冊子がこちら。

Introduction、Aims、Results and discussion、General conclusions、Acknowledgemens、Referencesで56ページ、これに、各論文が続いて、一冊の本となります。

とにかく、気が遠くなるほどの仕事量です。

それに対して、日本の医学博士はピンキリ。ある私立医大では、卒業生の殆どが開業医となります(もともと、開業医の子弟が入学するのですが)。開業医をするのに、研究生活の経験が必要だとは思いませんが、開業医として、「学位証明書」を診察室に飾ることは、大事であるようです。そんな大学はたいてい、「東大系列」などといって、一流大学の系列となっていることが少なくなく、教授、講師陣が外からやってくることが多い。そんな場合、講師陣が学位の下請けをして、数百万円の謝礼を受けるということも行われることがあるようです。もともと、授業料だけで5000万円近く、寄付金をあわせると6年間で1億円近くのお金をかけて医師となるのですから、数百万円で学位が取れるなら安いものなのでしょうけれど、そんな学位と、PhDが同列にされることは、納得がいきません。私の母校は当時は学費も安くて、普通のサラリーマン家庭の子弟が沢山いました。母校の前教授は、「学位は足の裏についた米粒みたいなものだ。取っても食えないが、取らないと気分が悪い。」などとのたまわっていましたが、実際は米粒を取るように簡単なものではありませんでした。私が学位を取ったときには、臨床が一区切りする夜の7時ごろから実験を始め、オールナイトになることもしばしばあり、結構大変でした。臨床家としても、研究に携わり、研究者としての視点や考え方を学ぶことは大事だと思いますが、タイトルを取るためだけなら無意味。とはいえ、教授になるためには学位取得は当たり前であり、カロリンスカでも、上級指導医(överläkare)となるためには、学位がなければいけません。とても優秀な外科医で研究者でもあるスイス人の同僚は、スイスではドイツ方式で、学位というシステムがないため(博士号を取るためには、マスターからやりなおさなければならないらしい)、överläkareになることができず、最近、母国へ帰る決意をしたということもありました。どこでも、ヒエラルキーの上を目指すのは、大変な訳です。

話をMの学位審査に戻します。

9時半より、まず、opponentの講演が15分くらいあります。続いて、Mが30分ほどの発表。そして、2時間近くに渡る質疑応答。前半はopponentが全ての論文の図表について細かく質問。後半は審査委員からの質問。

前の記事で、「BUT」を言わないように、と勇気を出して注意しましたが、なんと、Mは一回も「BUT」を口にしませんでした。練習のときより格段に良い発表でした。嬉しかった。

その後、別室で、審査委員とopponent、そして、指導教官、私は副指導教官として、判定会議に出席しました。勿論、文句なしの合格。

Mとラボの仲間達は、ラボの一室で軽食を食べながら結果発表を待ちます。そこへ我々が登場。審査委員長からの発表が。

そして、合格が告げられると、シャンパンを開けて乾杯です。

そして、同じ日の夜、場所を移して祝賀パーテイー。およそ70人が集まりました。

トーストマスターは同じラボのイタリア人のPhD studentと、Mの学生時代の友人。

本人や指導教官は勿論のこと、友人や家族のスピーチもあり、盛り上がりました。

中でも圧巻だったのが、同じラボのメンバーのスピーチ。

左から、アルゼンチン人、フランス人、中国人、イタリア人。

良い仲間を持つのは、幸せなことですね。

最後に20分にも及ぶ、恒例の映画上映。これも同僚による作成。本人は泣きそうになっていました。

研究者はこれからが本番です。頑張ってほしい。

大学における教授法についてのコース

現在、大学での学生への教育法についてのコースに出席しています。

参加者は26名。医師、歯科医師、看護師、作業療法士、研究者など、大学で教える立場にある人達が参加しています。純粋に教育に興味がある人もいれば、自分のキャリアのために必要な単位だから取っている人もいて、興味の度合いは人それぞれ。

教科書は、「Universitetspedagogik」。

講義とグループデイスカッションが主なのですが、普段使わない抽象的な単語が沢山出てきて、私にはかなり荷が重い。スウェーデン語を母国語としないのは私くらいです。英語のコースを取れば良かったかなと、かなり後悔しています。

講義をデザインするときに、最も大事なことは、「学習目標」を明らかとすること。何がどうして大事であるのかをはっきりさせなければなりません。学生のレベルを早い時点で見極め、レベルにあわせた授業内容としなければならない。学生とのコミュニケーションを取るにはどうしたらよいか。学生の理解が、「表面的」だけでなく、「より深い」ものとするには、どうしたら良いのか。

学生の進路には、「アカデミック」と「ノン・アカデミック」とがあります。アカデミックとは、教育・研究を伴った活動のこと。医師でもそうです。割合からすれば、「アカデミック」に属する医師はマイノリテイーですが、権威は「アカデミック」にどうしても付随するもの。「ノン・アカデミック」が進路であれば、学生の大学での目標は、究極のところ、「試験に合格する」というレベルで良いことになります。「暗記」だけで終わるのか、「深い理解」の試みをするのか。こんなことも、グループデイスカッションします。「暗記」だけで終わるような学習の仕方は、文化とも深い関わりがあって、それはアジア諸国に顕著だという記述が、既に教科書にもあり、それを日本の問題点として捉えていた私にとっては、とても印象深いものでした。

これまで、カロリンスカ医科大学でも、医学生や大学院生、留学生などの指導をしてきました。

奇しくも、2月に入って、私が指導教官であった大学院生が学位審査に合格しました。彼女が大学院生となった当初は、論文のプレゼンテーションもできないし、発表は原稿がないといけないという状況。しかも、性格的に、「bad loser」なのです。自分の非を認めない、謝罪できない人がいますね。これは本当に厄介です。自分をどうにかして正当化しようとしてきますが、相手にする方も厭になります。医師の後輩にもいます。医師の知識や臨床感覚は、どうしても経験値、つまり、勤務年数抜きには語れないところがありますが、先輩の言葉が素直に聞けない人がいます。まずは、先輩の言葉には耳を傾けるべきでなのですが、それができない人の指導は難しいものです。外科医の世界は特に。学問の世界では、優秀であり、自信がある人ほど、loserとなることを怖れないものだと理解しています。私も駆け出しの医師であったころは、「○○を知らない」と認めることが難しかった。しかし、専門医としても長い経験がある今は、「知らない」ということがそれほど恐くなくなりました(勿論、知らなくても許される分野についての質問に対してですが)。

「bad loser」は悪いことばかりではありません。例えば、世界のトップアスリートなどは、漏れなく「bad loser」だと思います。だからこそ、負けたときの悔しさをリベンジしようとすることで、次のステップがあるのです。脱線しましたが、大学院生の彼女Mが学位審査を受ける前に、「grillning」という機会を設けます。要は、「焼く。バーベキューする。」から転じて、本番同様の発表をしてもらい、厳しい質問や批評をする会のことです。彼女の最後のgrillningは3時間余りとなり、私もかなり虐めましたが、「negative feedback」をする、つまり、「批判」をするのは、かなり難しい。心配りが必要です。知識不足や、パワーポイントの不備などについては、簡単に指摘できますが、批判が難しい場合も稀ではない。目的はあくまでも、「向上」であって、「恥をかかせること」ではないのです。Mの場合、発表や質疑応答を貫くトーンが常にネガテイブで、これを何とかしたかった。ある問題点に気付いたのですが、それを指摘するかどうか随分悩みました。悩んだ挙句、比較的適したチャンスを見つけてコメントしました。

「あなたが質問に答えるとき、必ず「BUT」で始めるのよね。「BUT」で始めると、印象がネガテイブになるから、「BUT」を省くか、究極、「YES」に変えたらどうかしら。」

これに対しMは、

「BUT,,,,」

と応答し、一同大笑い。場も和んで救われました。

Abraham Lincolnの言葉にこんなものがあります。

「He has a right to criticize who has a heart to help.」

批判するだけで、助ける心が無いのであれば、批判する資格がない。逆に訳すとそういうことになります。

大学病院という、教育の場で働く私が、常に考えていることです。医者は一生発展途上。批判してくれる同僚には、感謝します。良薬は口に苦しですが、批判する方も辛い。批判せずに流す方がずっと楽なのです。そして、これは、人生に通じるもの。

今回は、「negative feedback」つまり「批判」について書きましたが、それと同じように大事なことは、「positiv feedback」、つまり「賞賛」。日本人は比較的これが下手だと言われていますね。職場だけでなく、子育て、夫婦、友達との関係でも、「褒めること」は、非常に大事だと考えています。

次のエントリーでは、カロリンスカでのPhD取得と、Mの学位審査について書いてみたいと思います。

尿路系損傷に関する講義

ストックホルムでは、平日の夕方に、特定の専門分野のスペシャリストを招いての勉強会が行われることが度々あります。

今回出席した勉強会は、特に、産婦人科疾患に絡む尿路系損傷などがテーマで、泌尿器科医だけが対象ではないのも、魅力の一つです。

「Obsteric and iatrogenic injuries to the urinary tract」

というタイトルで、スウェーデンに限らずヨーロッパ内の大家も招かれています。

自分自身の備忘録も兼ねているので、少しグロテスクな図も出てきますので、医療系に弱い方はどうぞスキップしてください。

「iatrogenic」とは、「医原性」の意味で、医原性尿路損傷は、今回は主に、産婦人科や消化器外科領域の腹部手術で、尿管や膀胱を損傷してしまうことです。子宮は膀胱のすぐ後に位置し、尿管とも近接しています。S状結腸や直腸は男性においては膀胱のすぐ後です。子宮全摘やS状結腸、直腸の手術において、尿管を損傷し、泌尿器科医が呼ばれることは、珍しいことではありません。

スウェーデンでは、一年あたり、約10万5千人の患者さんが、医原性の障害(治療行為により得る障害)を被っており、そのうちの4万人以上が手術の際に起こったものだそうです。医原性の障害を治療するために、病院の全ベッド数の10%が使われており、治療に必要なコストは1年あたり44億クローネにも上るのだとか。

帝王切開において、6人のうち1人が輸血が必要で、膀胱など多臓器の損傷は100人に2人。結構頻度が高いと思いました。

分娩後に、尿失禁や便失禁が起こることは良く知られています。

スライドは、胎児の頭が膀胱を恥骨に向かって圧迫するところを示しています。報告では、分娩後の尿失禁の頻度は5%から40%で、少なくとも10%以上の経産婦が尿失禁となるようです。

尿失禁よりも厄介なのが、便失禁。

分娩の際、肛門方向へ裂傷が起こることにより、肛門括約筋が損傷を受けるのが原因。Obsteric Anal Sphincter Injury(OASIS)と呼びます。

骨盤の形と胎児の頭の形は種族によって異なるそうです。ゴリラは安産なのでしょうか?因みに、人間はHomoです。

分娩の際に、会陰切開(Episiotomy)をすることがあります。

下段の図は、会陰切開の頻度の経年的変化、上段はOASISの頻度の経年的変化を示しています。

つまり、会陰切開が年々減るにつれ、OASISが増えているというデータ。

北欧におけるOASISの頻度は、デンマークが3,6%、ノルウェーが4,1%、スウェーデンが4,2%であるのに対し、会陰切開を多く行うフィンランドでは0,6%と低頻度。会陰切開がOASISを予防することは理解されていますが、会陰切開を行えば良いというものではなく、行う場所が重要。

肛門方向から45度の方向が良いとされますが、60度くらいを狙ってようやく45度くらいになるとされ、非常に難しいそうです。

尿失禁や便失禁、また、子宮脱を予防する意味での帝王切開はある程度効果があるとされています。しかし、緊急帝王切開では、肛門挙筋、臀部の神経、内骨盤筋膜などが既に損傷されている可能性が高いため、効果は殆どないとのこと。先に述べたように、帝王切開にも合併症がない訳ではなく、どんな患者さんを帝王切開とするかは難しいし、費用対効果も考慮しなければいけない。

尿失禁は泌尿器科の領域であり、多くの女性が密かに悩んでいる問題でもあります。

病状によって、骨盤底筋体操、内服や手術など様々な治療法がありますので、泌尿器科受診をお勧めします。

講義の後半は、主に産婦人科手術における尿管損傷の症例提示と、診断法や治療法に関するデイスカッションでした。泌尿器科医にとっては、目新しいものもなく、気楽に聞いていましたが、産婦人科の先生にとってはやはり難しいようでした。自分の専門科目の周辺領域の分野は、もっと勉強の必要があり、非常に刺激を受けた会でした。


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